静岡県裾野市で、新しい地域の未来を切りひらくための一歩が踏み出されました。
10月24日と25日の2日間にわたって行われた「裾野市地域イノベーションキックオフイベント」には、全国から企業・行政・スタートアップ関係者など約180名が集まり、地域の課題をどう乗り越えるかをテーマに活発な議論が交わされました。
裾野市は、自然に恵まれた製造業の町として知られていますが、人口減少や事業承継、人材流出といった課題も抱えています。そうした現状を前向きにとらえ、「地域に眠る資源を生かし、新しい価値を生み出す」ことを目的に開催されたのが今回のイベントです。
会場では、モビリティ、農業、介護、行政DXという4つのテーマを中心に、行政と民間が垣根を越えて意見を交わしました。特に印象的だったのは、静岡県知事の鈴木康友氏や裾野市長の村田悠氏など、自治体のトップが登壇し、スタートアップと同じ視点で未来を語り合ったことです。地域を「支える側」と「支えられる側」という枠を超え、共に挑戦する空気が会場全体に広がっていました。
この2日間で築かれたネットワークは、単なるイベントの枠を越え、裾野市から生まれる新しい地域イノベーションの土台となりそうです。
裾野市が挑む「地域イノベーション戦略」の始動

静岡県裾野市は、豊かな自然と製造業が集まる地域として知られています。しかし一方で、人口減少や人材流出、事業承継の難しさなど、地方都市が共通して抱える課題にも直面しています。
そうした状況を打開するために裾野市が立ち上げたのが「地域イノベーション戦略」です。今回のイベントは、その第一歩を示すキックオフとして開催されました。
テーマは「地域に眠るリソースを再発見し、共創によって価値を生み出す」。行政だけでなく、企業やスタートアップが同じ立場で議論に加わり、地域課題を新しい視点からとらえ直すことが目的です。
従来の行政主導型の取り組みではなく、多様なプレイヤーが関わる“共創”の形を模索する点に大きな特徴があります。裾野市が目指すのは、地域の強みを再発見しながら、次世代へとつながる持続的な仕組みをつくること。その挑戦が、今回のイベントで本格的に動き出しました。
初日:行政・企業・スタートアップが語り合った「共創の形」
イベント初日は、市内の企業や地域資源を巡る視察ツアーから始まりました。参加者は現地を歩きながら、ものづくりの現場や地域に根づく産業の力を体感し、裾野市が持つポテンシャルと課題を共有しました。

午後からはメインプログラムとして、行政・企業・スタートアップが一堂に会したトークセッションと特別講演が行われました。第一部では、静岡県知事の鈴木康友氏、裾野市長の村田悠氏、副市長の大西千聡氏が登壇。ファシリテーターを務めた静岡ベンチャースタートアップ協会(SVSA)代表理事の篠原豊氏とともに、県と市が連携して取り組むスタートアップ支援や、地域発のイノベーション戦略について意見を交わしました。
第二部・第三部では、地場産業のアップデートや地域企業の支援体制をテーマに、静岡銀行や三島信用金庫などの地域金融機関も議論に参加。金融・行政・民間がそれぞれの立場から「地域の変革をどう支えるか」を語り合い、具体的な連携の可能性を探りました。
終盤には、「アントレプレナーシップによる裾野の未来創造」をテーマとした講演と交流会が行われ、鈴木知事も終日参加。行政のトップが現場の議論に最後まで関わる姿勢に、参加者からは強い共感の声が上がりました。
裾野市という地方都市が、行政と企業、そしてスタートアップが肩を並べて“共創”を実践する場となった一日は、地域イノベーションの新しい形を示す象徴的な時間となりました。
2日目:現場目線で考える4つの地域課題

2日目は、裾野市が抱える課題を具体的に掘り下げる実践的なセッションが中心となりました。
モビリティ、農業、介護、行政DXの4つのテーマに分かれ、市内事業者や行政職員、そして全国から集まったスタートアップ関係者がディスカッションを実施。課題の本質を共有しながら、共創による解決策を探る時間となりました。
現場で実際に課題と向き合う参加者からは、日々の業務で感じている問題点や改善のヒントが多く挙がり、行政側もそれを真摯に受け止めて意見交換を重ねました。特に、デジタル技術を活用した行政DXの分野では、「小さな改善から始める現実的な変革」をテーマに、地域規模に合った取り組みの方向性が議論されました。
副市長の堀越崇志氏と大西千聡氏も議論に加わり、行政自らが議論の輪に入ることで、より現場に近い形での連携が進んだ点も印象的でした。
セッション後には、希望者を対象としたオプショナルツアーとしてサウナ体験も用意され、2日間の緊張感をほぐしながら参加者同士の交流が深まりました。
テーマごとの議論とリラックスした交流の両面を通じて、地域の課題を共有し、未来に向けたアクションを検討するきっかけが生まれた1日となりました。
地域から始まるイノベーション──SVSAの役割と今後

2日間にわたる議論と交流を経て、行政・企業・スタートアップが垣根を越えて協力し合う関係が形になり始めました。これまで別々の立場で地域を支えてきたプレイヤーが、共に課題を共有し、同じ目的に向かって動き出したことが今回の最大の成果です。
今後もこの流れを一過性のものにせず、地域に根づいた取り組みとして継続させていくため、静岡ベンチャースタートアップ協会(SVSA)は裾野市と連携を深めながら、実践的なプロジェクトを推進していく予定です。裾野の地から新しい挑戦を生み出し、地域が自ら変化を起こすための仕組みづくりを進めていくことが期待されています。
SVSAは、静岡県内のスタートアップ支援を通じて地域経済を活性化する団体で、資金調達や人材育成、ネットワーキング支援など幅広い活動を展開しています。さらに、行政や大学、金融機関などとの連携を強化することで、県全体でスタートアップを育てるエコシステムづくりにも取り組んでいます。
今回の裾野市での試みは、単なるイベントではなく「地域から始まるイノベーションの“実践の場”」として、今後の地方創生や行政DXのモデルケースになるかもしれません。裾野から生まれる新しい連携と挑戦が、静岡県全域、さらには全国の地域に広がっていく可能性を感じさせる取り組みとなりました。
裾野から広がる“共創の輪”が描く未来
2日間にわたって行われた「裾野市地域イノベーションキックオフイベント」は、行政主導でも、企業単独でも成し得ない「共創」の力を実感させる場となりました。
地域の課題を正面から見つめ、現場の声を出発点に議論を重ねたことで、裾野市が目指す「地域イノベーション戦略」の実現に向けた確かな一歩が刻まれました。
この動きの中心にあったのは、行政・企業・スタートアップという立場を越えた対話と実践です。そこには、地域の未来を自分ごととして捉える意識が共有されていました。行政DXやデジタル化といった技術的な変化だけでなく、「人と人がつながり、知恵を持ち寄る」ことこそが、地域を変える本当の原動力であることを示しています。
裾野市とSVSAが築いたこのネットワークは、今後も地域の中で息づき、新たな挑戦を支える土壌になるでしょう。小さなまちの取り組みが、全国の地方自治体にとっての“未来へのヒント”となるかもしれません。
地域の力で未来を動かす、その第一歩が、裾野から静かに始まっています。
