人手が必要な企業に対し、労働者を紹介するのがいわゆる派遣会社。読者のみなさんやその周りにいる人たちの中にもパート、アルバイトとして派遣会社経由で働いた経験があるのでは。今回ご紹介する株式会社PE-BANKも企業に対して労働力を紹介する点では派遣会社と同様かもしれませんが、その内容は他の派遣会社と大きく異なります。では、どのような点で他社と異なるのでしょうか? 6月14日に都内某所で開催されたPE-BANK主催のイベント「ProTechOne 2025」のオープニングで同社代表取締役社長の髙田幹也氏が語った事業概要や理念をもとに、PE-BANKが支持される理由を探っていきましょう。
ITフリーランスの地位向上を目指す「株式会社PE-BANK」の強み
PE-BANKは、1989年に協同組合として設立され、30年以上にわたりITフリーランスを支援してきた専門エージェントです。現在の登録者数は45,000人を突破し、約2,400名のITフリーランスが全国12の拠点を中心に活躍しています。
同社の最大の強みは、その成り立ちに由来する「共同受注」というビジネスモデルです。これは、クライアント企業との契約金額や手数料といった契約内容のすべてをITフリーランスに開示し、PE-BANKとフリーランスが共同で仕事を受注する形態です。この透明性の高い仕組みにより、三者間(クライアント・フリーランス・PE-BANK)の公平性を担保し、強い信頼関係を築いています。
またPE-BANKでは、契約するITフリーランスを「プロエンジニア」と呼び、独自の基準を設けています。これは、フリーランスに適切な確定申告やコンプライアンス遵守などを求めるもので、クライアントからの信頼を獲得し、ひいては「ITフリーランスの社会的地位向上」という同社のミッションを実現するための重要な取り組みとなっています。
さらに、シニアエンジニアのセカンドキャリアを支援する研修サービス「Pe-BANKカレッジ」の提供や、高校生のAI競技大会や大学生の技術コミュニティを支援するCSR活動「ネクストイノベーター支援」にも力を入れており、IT人材の育成と価値向上に多角的に貢献しています。

文化祭から始まった「ProTechOne」―学びと交流の最前線へ
PE-BANKが主催する「ProTechOne」は、2007年にスタートした歴史あるイベントです。髙田社長によると、当初は所属するフリーランスが自身の知見を発表し合う「文化祭」のようなアットホームなイベントでしたが、その後は著名なゲストを招いた講演会へと形を変え、時代と共に進化。特にコロナ禍以降はWeb配信を中心とし、全国のITエンジニアが参加できる大規模なフォーラムへと成長しました。
現在のProTechOneは、「ITエンジニアが押さえるべき業界動向を学び、語り合う」ことを目的としています。今年の「ProTechOne 2025」では、「ミライの自分を育てる ベストプラクティス」をテーマに掲げ、第一線で活躍するIT系YouTuberが一堂に会し、生成AIの台頭など急速に変化するIT環境の中でエンジニアが自己成長を続け、次のステージへ進むための道しるべを提示する内容が語られました。

イベントの司会を務めた元日本テレビアナウンサーの上重聡さんは、イベント中の複数のセクションにもMCとして参加して大活躍しました。
多くの著名ゲストが登壇した「ProTechOne 2025」
テーマ:フリーランス×正社員×起業 自由か、安定か?キャリア選択の未来を探る
登壇者:YouTuber セイト先生氏、YouTuber たんたセミナー氏、YouTuber シリコンバレーITエンジニア 酒井潤チャンネル氏
テーマ:伝説のエンジニア中島氏×AIエンジニア安野氏 AIのミライについて特別対談
登壇者:エンジニア・起業家 エンジェル投資家 中島聡氏、AIエンジニア・起業家・SF作家 安野貴博氏
テーマ:未来のエンジニアリングがITエンジニアの環境を変える ITエンジニアに求められるスキルを探る!
登壇者:YouTuber いけともch氏、YouTuber プログラミングチュートリアル氏
MC:フリーアナウンサー 上重聡氏
テーマ:能動的サイバー防御を斬る
登壇者:多摩大学大学院 客員教授 西尾素己氏
テーマ:IT系YouTuber界隈ではこうなってるらしいよ?ミライの自分に投資するならこれ!
登壇者:YouTuber セイト先生氏、YouTuber たんたセミナー氏、YouTuber いけともch氏、YouTuber プログラミングチュートリアル氏
MC:フリーアナウンサー 上重聡氏

最初のセクションでは「フリーランス×正社員×起業 自由か、安定か?キャリア選択の未来を探る」をテーマにセイト先生氏、たんたセミナー氏、酒井潤チャンネル氏によるディスカッションが行われました。

司会進行役として議論をまとめつつ、自身のエンジニア・経営者としての経験を交えながら、多角的な視点を提供したセイト先生氏。会社員と独立した個人事業主では、抱える「ストレスの種類」が違うと指摘。会社のルールに縛られるストレスか、来月の収入を心配するストレスか、どちらが自分にとって耐えられるかを見極めることが重要だと述べました。

日本のSES企業経営者としての視点から、国内の労働環境の変化を踏まえつつ、個人の価値観に合わせたキャリア形成の重要性を説いたたんたセミナー氏。全ての人がハイリスク・ハイリターンな働き方を望むわけではない。年収の高さを追求するだけでなく、人それぞれの「リスク許容度」に応じて、自身が心地よいと感じる働き方のバランスを見つけることが重要だと主張しました。

ハワイの自宅からリモート出演した酒井潤チャンネル氏は、AI時代でもAIを開発・保守するエンジニアの需要はなくなら図、むしろプロジェクトマネージャー等の職がAIに代替される可能性を指摘。キャリア選択では「やりがい」だけでなく、海外のように「給料の高さ」を基準にするのも有効な選択肢だと提言。AIの進化をふまえても、米国でエンジニアを目指すことは将来性のある正しい選択だと力説しました。
株式会社PE-BANK 髙田社長インタビュー
業界の常識を覆す「受注額のフル公開」で信頼を獲得。ITエンジニアと“チーム”として共に歩む、新しいエージェントの形とは?

創業の原点はアメリカのフリーランス文化。「共に受注する」協同組合からスタート
――PE-BANKは協同組合から始まったと伺いました。その経緯についてお聞かせください。
はい。約37年前に創業者がアメリカを訪れた際、当時からかの地で多くのフリーランスが活躍しており、彼らをサポートするエージェントが存在することを知りました。その仕組みを日本でも展開できるのではないかと考えたのが始まりです。帰国後、数名の技術者で協同組合を設立したのが私たちのルーツとなります。
一般的な人材エージェントが「紹介」に重きを置くのに対し、私たちは組合員として「一緒にやる」という意識からスタートしました。その「共同受注」という思想は今も強く根付いています。そのため、弊社に所属するプロエンジニアの方々を単なる派遣スタッフではなく、同じ目標を目指す「チーム」の一員と捉えています。
福利厚生も用意しており、稼働していただいている技術者の皆さんには自由にご利用いただけます。いわば「準社員」のような関係性で、共に成長していくことを目指しています。
業界の常識を覆す「受注額のフル公開」。信頼が生み出す驚異の定着率
――イベント内で、エンジニアへの発注額を全て公開しているとお話されていました。これは非常に珍しい取り組みではないでしょうか。
おっしゃる通り、受注額をフル公開しているのは、この業界では私たちだけだと思います。多くの企業がその部分をブラックボックス化して利益を確保する中で、私たちはあえて全てを開示しています。正直、儲かる仕組みではありません(笑)。しかし、この透明性こそがエンジニアからの信頼に繋がっていると確信しています。
その証拠に、弊社で5年以上継続して稼働してくださっているエンジニアが、全体の半数以上を占めています。フリーランスでありながら、エージェントとして弊社を選び続けてくださる方が、就業中のエンジニア数で約2,400名のうち1,200名以上にものぼるのです。これは、私たちが築いてきた信頼関係や安心感の表れだと考えています。
もちろん、新しい方も毎年入ってきますし、他社へ移られる方もいますが、全体として見れば、フリーランスのエージェントとしては非常に定着率の高い会社だと自負しています。
女性エンジニアの可能性と、これからの働き方
――近年、STEM教育の分野で女子中高生の理系進出が課題となっています。IT業界における女性の活躍推進について、どのようにお考えですか?
これまで特に性別を意識して事業展開してきたわけではありませんが、現状として、弊社に所属する女性エンジニアの割合は2割に満たない状況です。フリーランスになるという点では、さらにハードルがあるのかもしれません。
しかし、本来フリーランスという働き方は、出産や育児といったライフイベントとも両立しやすく、女性にとって大きなメリットがあるはずです。実際に、イラストレーターやデザイナーといったクリエイティブ職のフリーランスでは女性が非常に多い一方、フルタイムのプログラミング系となるとまだ少ないのが実情です。これは、「IT業界は多忙で帰れない」といった過去のイメージが影響しているのかもしれません。
出産を機に、働き方の自由度を求めてフリーランスになられる女性エンジニアも増えていますので、今後、こうした流れはさらに加速していくのではないでしょうか。
リモートワークの現状と、日本企業が抱える課題
――働き方という点では、リモートワークも普及してきましたね。
はい、増えてはいますが、完全なフルリモートの案件はまだそれほど多くありません。特に日本の経営者には「部下を目の前で見ていないと信用できない」という考えが根強く、リモートワークであっても「何かあったらすぐに来社できる首都圏在住者」を求める傾向があります。
東京ではコロナ禍でオフィスを縮小した結果、物理的に全社員が出社できなくなりリモートワークが定着した側面もありますが、地方ではむしろ出社回帰の動きが進んでいます。
一方で、エンジニア自身はリモートで働きたいと強く望んでいます。通勤時間がなく楽ですし、副業の機会も得やすくなりますからね。国境に関係なくプロジェクトチームを組む海外企業のように、日本でもより柔軟な働き方が広がっていくことが望まれます。
イベントを一般層にも開放し、エンジニアの魅力を広く発信
――本日開催されているイベント「ProTechOne」についてお聞かせください。どのような目的があるのでしょうか。
このイベント自体は2012年9月から形を変えながら続けており、「ProTechOne」という名称になってからは4回目になります。以前は所属するプロエンジニア向けのクローズドなイベントでしたが、現在は一般の方々にも対象を広げて開催しています。
これからエンジニアを目指す方はもちろん、登壇するYouTuberの方のファンなど、ITに直接関わりのない方にも見ていただくことで、エンジニアという仕事の魅力や可能性を広く伝えていきたいと考えています。
完全に文系人間の記者にとって、エンジニアのみなさんがどのような状況の中でどんな仕事をしているのかわからなかったですし、ITフリーランスを支援するPE-BANKのような組織があることも知りませんでした。そして今回、髙田社長の築いたPE-BANKの仕組みを聞いた時に感じたのは、「まるでハリウッド俳優とエージェントの関係みたい」というものでした。日本の俳優さんのほとんどは芸能事務所に所属して、事務所のスタッフが仕事をとってきますが、ハリウッドでは俳優は個人事業主。そんな彼らと契約したエージェントが仕事を斡旋するそうです。このフォーマットがPE-BANKの仕組みとオーバーラップしました。そして同時に、これはIT業界だけでなく、世にある数多の業種・業界にも必要なのではないでしょうか。