静岡県は、製造品出荷額で全国2位を誇る屈指の産業県だ。しかし、その輝かしい実績の裏側では、深刻な構造変化が静かに、だが確実に進行している。現在14年連続で人口が減少しており、2050年には人口が300万人を割り込むと推計されている。すでに県内企業の約7割が人手不足を痛感しているのが実情だ。
こうした危機感の中、転職サービス「doda」を展開するパーソルキャリアのプロ人材活用支援サービス「HiPro(ハイプロ)」が、静岡県で「スキルリターン」プロジェクトを始動させた。都市部で活躍するプロ人材の経験やスキルを地域企業へ還元するこの取り組みで、静岡は全国で12番目の展開地域となる。
深刻化する人材不足、県内企業45.2%が「特定職種の不足」を実感
背景にあるのは、避けては通れない「人口減少」という巨大な壁だ。産業県として名を馳せる静岡も例外ではなく、特にデジタル化や新規事業を牽引できる専門人材の不足は、企業の成長を阻む深刻な要因となっている。
「従来の『正社員採用』という枠組みだけに固執していては、企業の生き残りは難しい」。そんな切実な現場の声に対し、副業・フリーランスの「知見」を柔軟に借りるという選択肢が、今、現実的な解決策として浮上している。

1月27日に静岡市内で行われた発表会では、パーソルキャリアの執行役員・鏑木陽二朗氏が登壇。「静岡に想いがあり、興味を持っているプロ人材の方々には、地域に貢献できる新しい働き方があることを伝えたい。同時に、県内企業の皆さまには、こうした人材活用の可能性があることを知ってほしい」と、スキルリターンを通じた地域活性化への決意を語った。

地域に根差した金融機関と連携 現場で起きている「劇的な変化」
今回のプロジェクト始動にあたって心強いのは、地域のネットワークを熟知した県内の金融機関が協力体制を敷いている点だ。発表会の中でも(株)静岡銀行 静銀総合サービス(株)、しずおか焼津信用金庫グループ 静岡焼津マネジメント(株)、静清信用金庫、浜松いわた信用金庫、三島信用金庫によるプロ人材活用の事例紹介が行われた。

例えば、老舗缶詰メーカーの(株)サスナでは、外部のマーケティングプロ人材を招き入れ、ブランドコンセプトの再構築からパッケージの刷新までを一気に遂行。これまで地元中心だった販路が全国へと広がる兆しを見せている。また、船舶無線保守を手がける(有)エフアイティでは、必要性を感じつつも手つかずだったホームページを、副業人材の力を借りて開設。単なるサイト制作に留まらず、採用ノウハウを注入したことで、なんと5年ぶりとなる人材採用にも成功したという。外部の「目」が入ることで、長年の課題が次々と動き出している実例だ。

「スポーツ×副業人材」で挑む、ベルテックス静岡と描く10年後の街づくり
さらに今回、HiProが初めて挑むのが、プロバスケットボールクラブ「ベルテックス静岡」との連携だ。背景には、2026年から始まるBリーグの大きな改革がある。新リーグ「Bプレミア」への昇格には、試合の勝敗だけでなく「経営力」や「地域貢献」が厳しく問われる。2030年の新アリーナ開業を控えるクラブにとって、集客力の強化と地域活性化は、まさに一刻を争う最優先課題なのだ。

トークセッションに登壇したVELTEXスポーツエンタープライズの松永康太社長は、「チームの急成長は、プロ人材の手助けなしには成し得なかった」と断言。副業人材の存在こそが、静岡の未来を突き動かす大きなピースになると期待を寄せた。

今回、HiProは都市部の副業人材と地元の高校生を繋ぐ「共創プロジェクト」を立ち上げた。2月に開催される「パーソルDAY」では、まずは高校生の視点で「ワクワクする街」の条件を定義。そのアイデアをベースに、3月には副業人材が現地視察を経て、新アリーナを見据えた具体的な集客・活性化策をクラブへプレゼンする。採用された企画はそのまま実証フェーズへと進む仕組みだ。若者の感性と大人の専門性が、静岡の街を塗り替えていく。
「静岡で働きたい」という想いと、企業の課題がマッチする未来へ
今回の「スキルリターン」始動は、単に「人が足りないから外部に頼る」といった、一時的な穴埋めの話ではない。
かつては「その会社に所属していること」が働くことの前提だったが、これからは「自分が持つスキルを、必要とされる場所に還元する」という働き方が、地域経済を支える大きな柱になっていくはずだ。都市部で磨かれたプロの知見が、静岡の地元企業のこだわりと混ざり合い、あるいは地元のスポーツクラブを支える力になる。こうした「スキルの循環」が、結果として街全体の活気を生み、そこに暮らす人々の笑顔や新しい消費へと繋がっていく。
ビジネスの課題解決と地域活性化。この二つの潮流を一つにする今回の試みが、数年後、数十年後の静岡をどれほど強固で、どれほどワクワクするものに変えているのか。その加速する未来に、大いに期待したい。
