神奈川県は、障がいのある人たちが制作したアート作品を展示する「第2回かながわともいきアート展~生きること、表現すること~」を、2025年11月1日〜9日までの期間、横浜赤レンガ倉庫で開催中です。
「第2回かながわともいきアート展~生きること、表現すること~」開催
神奈川県では、障がい者アートを“ともいきアート”と称し、これまで「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念のもと、県内各所で作品展示などに取り組んできました。
2016年に県立障害者支援施設「津久井やまゆり園」で起きた痛ましい事件を受け、あのような事件が二度と繰り返されないように、上述した「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定したほか、昨年にはこれまで行ってきた展示イベントよりも規模を拡大した「ともいきアート展」を初開催。
その来場者に驚きと感動を与えた「ともいきアート展」の第2回が、2025年11月9日まで横浜・赤レンガ倉庫で開催中です。

会場には、657点の応募作品の中から選考を通過した約120作品と、これまで取組に協力してきた県内の障害福祉サービス事業所9団体の利用者が手がけた代表作約80点、合計200点を超える平面・立体作品が展示。

会場では、様々な来場者が気兼ねなく鑑賞することができるように“おしゃべりOK”のほか、寝転んで休憩できるスペースを設けるなど、可能な限り制約を少なくしているのだそう。
また、五感を使って楽しみながら障がいや多様性への理解を深め、来場者が共生社会について体感できるユニークな展覧会となっています。

審査員による作品解説ツアーを開催
本展覧会の開催前となる10月31日に、審査委員を務めた美術家・アートディレクター・表現活動研究所ラスコー代表の中津川浩章さんによる解説ツアーが行われ、受賞した作品などの解説を行いました。

「実は神奈川県はアート活動、表現活動を行っている施設が結構多いんです。公募展を始めるにあたって、やはり福祉施設をちゃんとつなげて連携を深め、“より活動を豊かなものにしていこう”という想いから、公募展+招待施設展という形のスキームを作りました。」
とコメント。
招待施設は昨年の5団体から、今年はおよそ倍となる9団体が参加することとなったと紹介してくれました。
作品の中には毎日4時間・3ヶ月間もの期間をかけて制作するなど、凄まじい集中力を発揮して作られた作品などが多数集まっています。



中津川さんによる解説ツアーでは、実際に作品を手がけた障がい者の方から、直接作品を制作した際の裏話などを語っていただける場面もあり、より作品に込められた想いを感じることができました。

金魚の優雅さが目を惹く作品「金魚と彼岸花」の作者である飯塚月さんは、
「私が自由に色々なところに行くことができないので、金魚に絵の中を自由に泳いでもらって、その絵が様々なところで展示されることで、色々なところに自分も足を運ぶことができる、という想いを込めてこの絵を描きました。」
とコメント。
この絵は3日間、殆ど休憩や飲食をせずに集中して描いた作品なのだとか。
「金魚は“人の手が入りすぎた観賞魚”と言われていて、人がいないとフナに戻ってしまうのですが、そういう部分で不自由さを感じる魚だなと思っていました。その自由を描くにあたって、金魚がいいと思ったんです。」
と、金魚をモチーフにしている理由について語りました。
魅力的な作品が多数寄せられた本展覧会。
準大賞に選ばれたのは、トイレをミニチュアで作った作品「実家のトイレ」

「この作品は昭和のトイレを作った作品です。しかもトイレだけではなく、トイレの佇まいを見事に再現していて、実際にドアやフタが開いたりもするんです。スリッパも並んでいて、動かせる。しかし、準大賞を決める際には『トイレを選んでいいのか?』という議論も出たのですが、一番作品について活発な議論が行われたのがこの作品だったんです。そういう意味では『どうしてこうなの?』という謎がいっぱい詰まっています。そういった惹きつけられるアート作品は、“答え”ではなく“問い”なんですよ。」
と、完成度の高さと“謎”が準大賞に選ばれた理由だと解説。
そして栄えある大賞に輝いたのは、ドローイング作品「ライオン」でした。

審査委員を務めた平塚市美術館特別館長の加藤弘子さんは、

「ほぼ審査をしている人たち全員一致でこの作品が選ばれました。もちろんずいぶんと悩みましたが、線の多様さ、そして集中力を感じさせる線の細かさと同時に、このライオンの顔の迫力というのが同時に画面の中にあるんです。多分この作品を写真に撮って画面で見ただけの人が直接見たら、(作品が)小さくてびっくりすると思うんです。それだけ画面の中にエネルギーが集中している作品だなと思い、大賞に選出しました。」
とコメント。
同じく審査委員を務めた現代美術作家の吉田有紀さんは、

「緩急のバランスや、目立たせたい所がすごくシンプルに表現されていて、なかなかやろうとしてもできないことだと思うんですよ。シンプルな素材ながらも豊かな作品で、デザイン要素もあって、僕もこういうTシャツとかシャツがあったら欲しいな、と思うような作品でした。色々な見え方をするデザイン的な豊かさが、本当に感動しました。」
と評しました。
その他にも、審査員も選考に悩んだ素晴らしい作品が多数展示されているので、開催期間中にぜひ足を運んでみてください。

イベント概要
●「第2回かながわともいきアート展〜生きること、表現すること〜」
会期:2025年11月1日(土)〜11月9日(日) 10時30分〜20時
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館2階スペース
