創業以来初となる全面改修のため今年2月から一時閉館していた東京・港区の「八芳園」が10月1日のリニューアルオープンを前にメディア向け発表会を行い、新設の「CLUB FLOOR」など施設の一部が公開された。関本敬祐総支配人が発表会の中で語った改修のコンセプトは「日本の、美意識の凝縮」。婚礼のプロから総合プロデュース企業へと組織が変革を遂げる中で、ブライダル施設だけでなく国際会議などのMICEに対応する機能を備えた施設に生まれ変わった園内では、そのコンセプトが示す日本らしい美の洗練された形を見ることができた。ここでは当日撮影した数々の写真を通じて、伝統の継承とともに次の時代に踏み出す八芳園の新たな美を堪能していただこう。
「日本の、美意識の凝縮」をコンセプトに全面改修
かつて薩摩藩の藩邸などが置かれていた地を大正時代に実業家の久原房之介が整備し、江戸時代初期からの歴史を持つ日本庭園を中心にして現在のルーツが築かれた八芳園。今回のリニューアルは、1943年(昭和18年)に「八芳園」としてスタートして以来最大の全面改修となり、「継承と創造」をテーマにしたリデザインと空間の再構成が行われた。

正門から園内に入り、「日本の、美意識の凝縮」というリニューアルのコンセプトを最初に感じられたのは、本館の顔である玄関のファサードだ。天井を支える柱にはカラマツを使用。また、新設されたエスカレーター横の壁面にはヒノキの装飾が施され、古来より木の文化を育んできた日本人の心を感じさせる。

一方で、施設の象徴である日本庭園と本館の距離感を近付けたのも以前との大きな変化だ。庭園側に造られたエントランスへのアプローチにはさっそくその狙いが感じられ、緑の景色を望みながら木のアーチをくぐる導線に、まるで神域に足を踏み入れたかのような厳かさを覚える。

実業家・久原 房之助の精神を受け継ぐ“シンボルツリー”
同じく庭園の景色を一面の窓に取り込むメインロビーは、リニューアルのコンセプトを象徴する空間だ。その中でまず目を引くのは、中央に配された“シンボルツリー”と呼ばれる大きな木のオブジェだろう。

発表会の中で関本敬祐総支配人が語った内容によると、八芳園の基礎を築いた久原 房之助がこの地で強く心惹かれたのは「樹齢400年の一本の赤松だった」そうで、同氏は「庭を作るのではなく自然を整えるという信念のもと、その赤松を中心に庭園を整えた」という。

福岡県大川市の創作家具職人・西田政義が手がけたこのオブジェは、そうした久原氏の精神に倣って「新たに建物を建てるのではなく、既存の建物をより良い形で継承していくことで、八芳園の原点である日本庭園との親和性をより一層深める」という、「継承と創造」の象徴的存在であり、伝統をさらに次の時代に繋ぐ意思を示している。
約12万5000枚のパーツが織りなす超絶技巧の組子アート
そして、このシンボルツリーを囲むように三方の壁に飾られているのが、『光風庭伝』と名付けられた組子アートだ。

現代水墨画の巨匠・小林東雲と福岡県大川市の組子職人・木下正人のコラボレーションによる本作は、古来より吉祥の象徴である「松」を中心に、「竹林」「太陽」「月」など八芳園の庭園にまつわるモチーフが描かれた水墨画を、組子細工の伝統模様を活かしながら起こしたもの。


神代杉、朴の木、檜、檜葉、吉野杉と色味の異なる5種の木材を用い、パーツの厚みを5段階に変えるなどして水墨画特有の濃淡を巧みに表現。金箔やプラチナ箔も装飾されたアートは、光り輝く未来を連想させるまばゆさを放つ。

なお、使われている総パーツ数は、なんと約12万5000枚。少し離れて全体図を眺めるのも壮観だが、近付いて見るとその超絶技巧を間近で感じ取ることができる。また、一角には屋久杉の板から掘り起こされた鶴のつがいの姿も見られ、夫婦円満の願いを込めた縁起の良さを感じさせる。

メインロビーから続く3階のレストラン「ALL DAY DINING FUDO」では、石窯焼きのピザをメインに、八芳園と連携協定を結ぶ自治体の生産者から直送される素材を使った料理を提供する。全国の食材とともに、コーヒーカップも愛知の瀬戸焼、滋賀の信楽焼、岐阜の美濃焼、青森の津軽金山焼と各地の伝統的な焼き物で提供。ここも”日本の美”を感じられるささやかなポイントだ。

MICEのニーズに合わせて新設された“黒”と“白”の「CLUB FLOOR」
次に国際会議などMICEのニーズを強化するために新設された会員制フロア「CLUB FLOOR」を見学。エスカレーターで4階に上がり、約1万坪の敷地面積の中にある庭園を一望する「ROOFTOP TERRACE」を経て、5階の「LOUNGE KOKU」へ。

黒を基調にしたこちらは全長20mと7mのLEDウォールを備える多目的空間「STUDIO KOKU」に併設されたラウンジで、屋内から庭園を見下ろすことができるスポットだ。

館内を案内してくれたスタッフによると、5階からみる庭の展望は「手前から奥までを一望できてとてもきれい」とのこと。公式ホームページの写真にも、この階からの景色が使われているそうで、窓の外にはその言葉に違わない絶景を見ることができた。

一方で、白を基調にした6階の「HALL HAKU」は懇親会等の利用を想定して造られた空間だ。白いパレットを意識したという、天井に無数のレースがひらめく景色は圧巻。この日は八芳園のオリジナル衣裳室ブランドを手がけるクリエイティブディレクター・飯島智子による空間コーディネートで、まるで白雲が空をたなびくような光景に、最後まで日本的な美が感じられた。

約半年の充電期間を経て新たな一歩を踏み出す八芳園。日本の美を凝縮し、より多目的に進化した同園は、さらに多くの人々の縁を結ぶ場になっていくことだろう。