働き方に対する価値観が大きく変わりつつある今、企業は何を大切にし、どんな未来を描こうとしているのでしょうか。2025年7月、大阪で開催された交流イベントには、全国から“働きやすさ”の基準を可視化する「ホワイト企業認定」を受けた企業と、近畿大学の学生たちが集まりました。テーマは、これからの働き方と、次世代が求める職場像。経営層や人事担当者、そしてZ世代と呼ばれる若者たちが、それぞれの視点から率直に語り合う場となりました。
会場では、健康経営や柔軟な働き方、組織文化づくりなど、業界を越えて実践されている多様な取り組みが共有されました。また、学生たちからは、「心理的安全性」や「ビジョンへの共感」といったリアルな声が飛び出し、企業側も制度や戦略を見直すヒントを得る機会となったようです。
一方的なプレゼンテーションではなく、双方向の対話が重視された今回の交流会。そこに集まったのは、「人を大切にする」という共通の価値観を持つ企業たちでした。働き方改革のその先を見据える企業同士のつながりが、未来の職場づくりのヒントを生み出しつつあります。
働き方の最前線を語り合う場に

2025年7月、大阪で開催された交流イベントに、全国から“ホワイト企業認定”を取得した企業34社が集まりました。参加したのは、経営層や人事担当者を中心とした企業関係者、そして近畿大学の現役学生たち。多様な立場の人々が「これからの働き方」をテーマに意見を交わす、活気ある場となりました。
この交流会では、業種や業界の垣根を越えて、実際の取り組みが共有されました。特に注目を集めたのは、株式会社K-BITの中西正人氏による登壇です。同社が推進する健康経営の事例として、“家族にも誇れる働き方”を目指したユニークな制度が紹介され、多くの共感と関心を呼びました。
参加者からは「自社では思いつかない視点だった」「すぐにでも取り入れたい内容があった」といった声も聞かれ、実践的な学びの多い時間となったようです。一方的な講演ではなく、企業間の対話と情報交換が中心だったことも、参加者同士の距離を縮め、深い学びにつながった要因といえます。
世代のリアルな声が企業の気づきを促す

今回の交流会では、企業側だけでなく学生たちの視点からも積極的な発信がありました。登壇したのは、近畿大学経営学部の團 泰雄教授と、同教授のゼミに所属する学生たちです。彼らは「Z世代が求める職場環境と価値観」をテーマに、自分たちのリアルな声を企業関係者の前で率直に語りました。
講演の中で語られたのは、単に待遇や条件の話ではありません。「柔軟な働き方ができるか」「心理的な安全性が保たれているか」「会社のビジョンに共感できるか」「人間関係が透明であるか」など、Z世代が重視する価値観が多面的に紹介されました。こうした本音の共有は、参加企業にとっても大きな刺激となったようです。
実際、参加企業からは「採用広報や制度設計の見直しにつながる貴重な視点だった」「理想と現実のギャップに気づかされた」といった声が寄せられており、若い世代の価値観が企業の内側に変化を促すきっかけとなっていました。世代間の対話がもたらす気づきは、単なる参考にとどまらず、組織の未来を形づくる大きなヒントにもなっているようです。
共通の社会課題に向き合う企業たち

働き方改革が注目される一方で、長時間労働やメンタルヘルスの不調といった課題はいまだ多くの企業にとって現実の問題です。そうした背景の中、今回の交流会では、単なる成功事例の披露ではなく、企業同士が直面する課題について率直に語り合う場面が数多く見られました。
同じような課題を抱える企業同士が一堂に会し、対話を重ねながら施策を共有することで、「自社の制度に改善のヒントを得た」「異業種の取り組みが大きな気づきになった」といった前向きな声が寄せられています。特定の業種や企業規模にとらわれず、“人を大切にする”という共通の価値観が、横のつながりを生み出していることが印象的です。
また、こうした企業間の学び合いは、一時的なトレンドではなく、持続可能な組織づくりに向けた地道な取り組みの積み重ねでもあります。制度だけではなく、風土や文化のあり方も見直すきっかけとなる場として、参加企業にとってこの交流会は貴重な機会となっていたようです。
「ホワイト企業」という言葉が要らなくなる未来へ

今回の交流会の背景には、単に企業イメージを良く見せるという目的ではなく、「働く人が誇れる職場をつくる」という強い理念が根づいています。その象徴とも言えるのが、一般財団法人日本次世代企業普及機構の岩元翔代表理事の言葉です。
岩元代表理事は、「ホワイト企業認定は“いい会社ですよ”という称号ではなく、企業がどんな未来を目指しているのかを社会に示す旗印である」と語っています。「従業員を大切にする」とは、一人ひとりが「この会社で働けてよかった」と感じられる瞬間を、丁寧に積み重ねること。それは数値で測ることが難しく、目に見えにくい価値ですが、その積み重ねこそがやがて組織や社会を変えていく力になるという考え方です。
さらに、「将来的には“ホワイト企業”という言葉が必要のない社会をつくることが目標である」とも述べています。“従業員を大切にすること”が特別な価値ではなく、すべての企業にとって当たり前になる社会。そんな未来を本気で目指しているからこそ、今回のような企業同士の対話と学び合いの場が持つ意義は大きいといえます。
今後の展望と制度の意義

今回の交流会は、認定企業限定のクローズドな形で実施されましたが、今後はさらに広く門戸を開いていく方針が示されています。次回は2025年12月に東京での開催が予定されており、一般企業やメディアも参加可能な“オープン形式”として実施される予定です。
同時開催される「ホワイト企業アワード」では、再現性が高く、先進的な取り組みを行っている企業が表彰されます。単に注目を集めることを目的とするのではなく、「人を大切にする企業文化」を社会全体へと波及させていく機会となることが期待されています。
また、こうした活動の軸となるのが「ホワイト企業認定」という制度です。この認定は、企業の取り組みを総合的に評価する日本唯一の仕組みであり、生産性や健康経営、人材育成、ダイバーシティなど7つの観点に基づいた70項目で構成されています。認定を通じて、自社の強みや課題を可視化できる点も、企業にとっては大きな意義となっているようです。
“働く人が誇れる会社を次世代へ”というスローガンのもと、今後も全国各地で交流の場が提供されていくとのことです。働き方や組織文化のアップデートに取り組む企業がつながり合うことで、新しい時代のスタンダードが形づくられていく。そのプロセスは、決して派手ではありませんが、着実に社会の価値観を変えていく一歩となっているように感じられます。
対話がつなぐ、働き方の未来
働く環境や価値観がこれまで以上に多様化するなかで、企業も個人も「変わり続けること」を求められています。制度や仕組みだけでなく、日々の関わりや組織文化のあり方を問い直す動きが、少しずつ広がりを見せています。
今回の交流会に集まったのは、ただ“認定”を得た企業ではなく、「人を大切にする組織でありたい」と本気で考える企業たちでした。学生たちの率直な言葉に耳を傾け、他社の実践に学び、自らの在り方を見直そうとする姿勢には、働き方の未来をつくる意志がにじんでいました。
こうした対話と共有の場が、今後も企業や世代を越えて広がっていくことで、「誰もが誇れる働き方」が当たり前となる社会は、決して遠い夢ではないのかもしれません。小さな一歩の積み重ねが、大きな変化を生み出す。そんな未来への希望を感じさせる時間だったといえます。