少子高齢化が進む日本社会において、育児や介護と仕事の両立はもはや“個人の努力”で乗り切れる問題ではない。職場には柔軟な働き方や制度の整備が求められ、企業にはその対応力と継続的な仕組みづくりが問われている。こうした背景のもと、2025年4月から順次施行されている「改正育児・介護休業法」は、誰もがライフステージに応じて働き続けられる環境の実現に向けた大きな一歩といえる。しかし、法整備が進んでも、それが現場にどのように浸透しているのか、社員にとって使いやすい制度となっているのかについては、十分に検証されているとは言い難い。働き手の実感と企業の制度設計との間に、見えにくいギャップが存在するのではないか──そんな疑問が浮かぶ今、問われるのは「制度の存在」そのものではなく、「制度が活きる現場」の構築である。
そこで、デジタルの力であらゆる業務を効率化する株式会社インフォマート(https://corp.infomart.co.jp/)は、自分もしくは配偶者が妊娠している、小学校就学前の子どもがいる、介護が必要な家族がいる会社員504名と、会社のバックオフィス担当者506名を対象に、育児・介護休業法改正とDX対応に関する調査を実施した。
知られていない「改正法」、当事者でも6割が内容を把握していない現実

制度の効果は、まず「知っていること」から始まる。しかし、2025年4月・10月に段階的に施行されている改正育児・介護休業法について、「よく知っている」と回答した人はわずか10.5%にとどまり、「ある程度知っている」(29.8%)を含めても4割程度にとどまった。さらに、「聞いたことはあるが詳しくは知らない」(32.5%)、「まったく知らなかった」(27.2%)と回答した人を合わせると、全体の約6割が制度の内容を十分に理解していない実態が明らかになった。また、業務のDXが進めば育児・介護と仕事の両立がしやすくなるかという問いに対しては、「とてもそう思う」(16.3%)、「ややそう思う」(40.5%)と、肯定的な回答が過半数を占めた。一方で、「あまりそう思わない」(32.7%)、「まったくそう思わない」(10.5%)も存在し、現場の実感にはばらつきがあることがうかがえる。
制度が活用されるためには、まず当事者にとって「身近なもの」として理解されることが不可欠である。認知不足のままでは、制度は絵に描いた餅に終わってしまう危険性がある。
テレワーク・短時間勤務は“使える”が“使いにくい”? 利用実態にみる制度の限界

制度が存在していても、それが現場で“自然に使えるか”どうかは別の問題である。今回の調査では、育児や介護を理由に、テレワークや短時間勤務などの柔軟な働き方が気兼ねなく利用できるかを尋ねたところ、「とても利用しやすい(17.3%)」「ある程度利用しやすい(35.3%)」と回答した人は全体の約半数にとどまった。つまり、制度の“気軽さ”や“浸透度”においては依然として壁があることがうかがえる。
実際、「利用しにくい雰囲気がある」「自分の条件では制度が適用されない」といった否定的な回答も一定数見られた。制度が存在していても、社内文化や人間関係、業務負担への懸念といった“空気”が、制度利用をためらわせているケースも少なくないと考えられる。では、こうした状況に変化をもたらす手段はあるのか。クラウドサービスの導入に期待する点を聞いたところ、「テレワークが可能になる(場所に縛られず働ける)」(31.9%)、「チーム内の情報共有がしやすくなる」(29.8%)、「クラウド上で安全にデータを管理できる」(24.0%)といった声が多く挙がった。制度そのものの改定だけでなく、実務上の柔軟性を支えるデジタル基盤の整備が、育児・介護と仕事を無理なく両立させる鍵として期待されていることがわかる。
制度と現場の間に横たわる「使いにくさ」は、技術と運用の工夫によって乗り越えられるかもしれない。ただし、それには制度とDXの両輪での改善が必要不可欠である。
企業の対応状況は半数止まり 負担の大きい「社内周知」と「制度改定」

制度を生かすには、企業側の的確な対応が不可欠である。だが、改正育児・介護休業法に対する企業の対応状況は、まだ十分とは言えない。バックオフィス担当者を対象とした調査では、2025年4月施行分について「すでに対応を完了している」と答えた企業は半数近くに達したものの、10月施行分については対応完了が約3割にとどまり、準備が進んでいない企業も少なくない。段階的な施行とはいえ、全体としての対応スピードにはばらつきが見られる。

さらに、制度対応にあたって「何が役立ったか」との問いに対しては、「改正内容の正確な把握」(40.8%)、「経営層の理解・推進」(33.6%)、「クラウドサービスの導入」(24.1%)といった回答が挙がった。これは、単なる法的対応だけでなく、経営レベルでの後押しやツール導入が、制度整備を円滑に進めるうえで重要であることを示している。一方で、企業が特に負担を感じた業務としては、「社内への制度の周知・説明」(39.6%)、「就業規則や社内制度の改定」(36.0%)、「申請・承認・帳票管理等の管理業務」(26.2%)が上位に挙げられた。制度を作るだけでなく、それを社内に浸透させ、実際に運用する段階で多くの手間やリソースが求められていることがわかる。
改正への対応は、単なる「法令順守」にとどまらず、働きやすい職場づくりへの転換点ともなるはずだ。しかし現実には、現場における説明や運用の煩雑さが障壁となり、制度が活きるまでに至っていない企業も多い。この状況を打破するには、制度整備と同時に、社員への丁寧な情報共有と、運用負担を軽減する仕組みづくりが求められている。
クラウドサービスへの期待と現実 求められるのは「わかりやすさ」と「伴走支援」

業務の効率化や制度運用の円滑化を図るうえで、クラウドサービスは有力な手段とされている。では、企業の現場ではどのように受け止められているのだろうか。
バックオフィス担当者に対してクラウドサービスの導入状況を尋ねたところ、「すでに導入している」が47.8%と約半数に上り、「導入を検討している」(17.6%)を含めると、全体の約7割が前向きな姿勢を示していることが分かった。すでに一定の浸透が進んでいる一方で、裏を返せば3割はまだ導入に至っておらず、社内DXが十分とは言い難い現状も浮き彫りになっている。また、クラウドサービスに対して今後求める要素については、「複数帳票の一元管理が可能である」(37.9%)、「導入から稼働までサポートが手厚い」(31.6%)、「コストパフォーマンスが高い」(27.9%)が上位を占めた。機能の豊富さや最先端の技術よりも、「使いやすくて、頼れる」ことが選定の軸になっている点が特徴的である。
現場の声から見えてくるのは、日々の業務に追われるバックオフィスにとって、“習熟が必要な高機能ツール”よりも、“直感的に使えるシンプルな設計”や、“サポート体制の安心感”のほうが、導入を後押しする要因となるという実態だ。制度対応のためのツール導入で、かえって業務負担が増しては本末転倒である。クラウドサービスが真に現場の味方となるには、導入の敷居を下げる工夫と、導入後も継続的に支援し続ける体制が求められている。法改正や制度対応が“やるべき業務”で終わらないために、使いやすさと伴走支援の両立がカギとなる。
【調査概要】
調査対象:①自分もしくは配偶者が妊娠している、小学校就学前の子どもがいる、介護が必要な家族がいる会社員/②会社のバックオフィス担当者
調査方法:PRIZMA(https://www.prizma-link.com/press)によるインターネット調査
調査内容:「育児・介護休業法改正とDX対応」に関する調査
調査期間:2025年6月6日(金)~6月9日(月)
回答者 :1,010名(①504名/②506名)
改正育児・介護休業法は、多様な働き方を実現する制度として大きな意義を持つ。しかし今回の調査結果からは、その制度が十分に知られておらず、利用しにくい空気や運用上の負担が、実効性を妨げている現実が見えてきた。
企業側の対応も道半ばであり、法改正の趣旨を現場に落とし込むには、単なる制度整備にとどまらず、情報の周知、業務の標準化、柔軟な運用のための仕組み作りが欠かせない。そこで重要となるのが、現場にやさしく、伴走支援のあるDXの存在である。クラウドサービスに求められているのは、複雑な機能や華やかな技術ではない。むしろ「一元管理」「導入支援」「コストパフォーマンス」といった、実務に根差した実用性が重視されている。制度が生きるかどうかは、最終的には“使われるかどうか”にかかっているのだ。
育児や介護と仕事の両立を、誰もが自然に選べる社会を実現するには、制度と現場の間にある溝を埋める具体的な支援が必要である。それを可能にするのは、現場目線で設計されたDXに他ならない。今後も企業と働き手が、ともに制度を「活かせる」環境づくりが求められている。