機械製造・エンジニアリングメーカーの三菱化工機株式会社は、「循環型社会の実現」に向けた取り組みとして、さまざまなパートナーと共創して社会課題解決ソリューションおよびビジネスモデルの創出を目指す取り組み『MKKプロジェクト』を始動させた。2025年7月3日(木)、同プロジェクトに関するメディア向け発表会が川崎市内にて行われた。
環境対応技術を培ってきた三菱化工機

冒頭、三菱化工機株式会社 代表取締役 社長執行役員 田中利一氏が登壇し、同社の事業内容を紹介した。
三菱化工機は1935年に川崎で創業し、今年で創立90周年。プラント・環境設備の建設・エンジニアリングと、各種単体機械の製作及び、納入後のアフターサービスを軸に事業を展開。製造機能を持ったエンジニアリング企業として、都市ガス・水素・石油化学・半導体・電子材料・船舶・医薬・各種水処理など様々な分野で求められる機械・設備を製作・建設し、社会の発展を力強く後押ししている。
特に、1950年~1960年においては、ガスプラント、下水処理など高度経済成長を支えるインフラ関係の機械技術を開発。1970~1980年では日本経済が高度成長気を迎えると同時に深刻化する大気汚染、排水についての処理装置を工場に設置。また、1990年以降、都市ガス生成のプラントを作るにあたり培われた水素の製造技術を元に、現在クリーンエネルギーとして注目されている小型の水素製造装置も作っている。
このような環境対応技術を培ってきた三菱化工機。世界各国が2050年のカーボンニュートラル実現を掲げ、脱炭素化に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)事業が“未来社会の中核”として急速に拡大している中、三菱化工機もまたカーボンニュートラルに資する機械を作っていくと同時に、新しいビジネスモデルや新しい分野に進出すべく今回の新ビジネス戦略を発表するに至ったという。
循環型クリーンエネルギー×ビジネスデザインで世界を循環型社会に変える『MKKプロジェクト』

次に、三菱化工機株式会社 常務執行役員 イノベーション推進担当 林安秀氏より、新ビジネスの詳細である『MKKプロジェクト』について発表した。
日本企業は、水素製造やバイオマス活用において高い技術力を有しているものの、政府が推進している「2050年カーボンニュートラル」を達成するためには、企業個社による技術開発と製品供給だけでは不十分であり、様々な業界・業種が参画し、需要・市場創出を含めたビジネスバリューチェーン全体を俯瞰して活動を推進していく必要がある。さらには、その社会実装においては、法制度や人材育成といった周辺環境の整備も不可欠だという。しかし現状では、水素やバイオマスなどによる地域循環型エネルギーシステムの技術供給はプロダクトアウト先行で、必ずしも需要創出が伴っていない。また、そのサプライチェーンも部分最適にとどまっており、結果として事業収益性が低いという課題があるという。この状況を改善するためには、マーケットインの発想から事業全体を再構築し、全体最適の観点からバックキャストした技術開発や市場開拓を行うというビジネスデザインに基づいた取り組みが必要であると考えた。

そこで立ち上げたのが『MKKプロジェクト』である。『MKKプロジェクト』は、川崎市および神奈川県に所在する企業や団体を中心とした多種多様な共創パートナーと共に、水素やバイオマスなどによる地域循環型エネルギーシステムの開発供給と、それらの需要開発(ビジネスデザイン)を両輪で推し進め、循環型社会における新たなビジネスモデルの構築、ひいては社会課題の解決を目指すというもの。

三菱化工機が90年にわたって培ってきた環境対応技術を基盤に、多様な分野の知見やアセットを掛け合わせ、5つの活動分野(「スポーツ&カルチャー」、「環境・災害対応」、「食・医療」、「学び・人材育成」、「地域創生」)において多様な共創パートナーと共に、世界を循環型社会に変える様々な事業を創り出していく。
これらの取り組みの拠点となるのが、日本の高度経済成長を支えてきた工業都市であると同時に、歴々の公害・環境問題に苦しみつつも、最新環境技術によって課題を解決してきた歴史を持つ「川崎」。歴史に由る独自の文化がベースにある「場のエネルギー」、そこに集うアスリートやアーティストが持つ「人のエネルギー」、地元企業が長年培ってきた「技術のエネルギー」が融合する川崎を「Energy創発特区」と位置づけ、川崎を拠点に新たなビジネスモデルを創出し、世界ブランドへと昇華させていくことを目指す。
上智大学と社会連携講座を開設

『MKKプロジェクト』の5つの活動分野のうち、第1弾として2つの取り組みが行われる。
1つ目は、「食・医療」「学び・人材育成」において、上智大学と「フード&エネルギーのサーキュラーエコノミー化」をテーマに社会連携講座を2025年10月開設予定。
この社会連携講座では、三菱化工機が再生可能エネルギーであるバイオガスをベースに、水素・アンモニアの活用も視野にいれた農作物の研究・生産設備の開発、および食品産廃物や家畜排せつ物などからなるバイオフードリサイクルによる「エネルギーの地域循環型オンサイトシステム構築」を担当。上智大学は、本講座をプロジェクト型授業として実施し、学生は三菱化工機より提供された技術を基盤とした農産物生産ビジネスをチームの題材とし、実行可能なビジネスモデルを立案。特に、再生可能エネルギーや安定的な食料生産・流通システムの構築、市場における販売戦略の立案といったリアルな社会課題に挑み、農産物の本来持つ高付加価値を流通経路上で維持するようなバリューチェーンを伴った、サーキュラーエコノミー型ビジネスの在り方を探索する。
学生たちが教員の下で経済学・経営学における理論とデータ分析を用いて生み出したアイデアに対し、三菱化工機をはじめとしたビジネス現場からのリアルな評価を得て現実味のある事業プランへと昇華させ、社会的意義を持つ政策提案や「サーキュラーエコノミー型ビジネスモデル(事業計画)」として企業や自治体に対する提案も行うなど、単なる知識の習得にとどまらず、汎用性のある思考力、課題解決力、そして社会的責任感を育む機会となることを目指す。
林氏は「廃棄物を極端に抑える、あるいは経済的なものを生み出すために、どういうことをした方がいいかをこの産学連携でやっていきたい」と述べた。

発表会に登壇した上智大学SPSF(持続可能な未来を考える6学科連携英語コース)主任・経済学部教授 堀江哲也氏は、「循環型農業の技術上の理想形は、大学では研究やシミュレーションで理論上は議論できるが、実践はできないことが悩みだった」とし、今回の社会連携講座を通じて「学生は実際の技術を使ったビジネスモデルを提案し、企業側からの批判、評価を受ける。それを乗り越えた提案はきっと社会実装可能なアイデアになるのではないか」と期待を述べた。
2030年開業予定「川崎新アリーナ」を環境に配慮した循環型アリーナに

また、2つ目の取り組みとして、プロジェクトの「スポーツ&カルチャー」分野において、2030年10月に開業予定の川崎新アリーナシティでの世界最先端の環境対応型アリーナ建設に向けた実証実験などの協業を株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)と進める。

発表会で行われたパネルディスカッションには、株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 取締役会長元沢伸夫氏も登壇。その中で、川崎新アリーナシティについて元沢氏は、「世界基準のアリーナを作りたい。羽田空港が近いので、世界に近いアリーナとなる。国内の人、川崎の人にはもちろん、世界からアーティスト、世界からアリーナでそれを見る方々を呼びたい」と語った。
また、今回のプロジェクトの取り組みについても触れ、「1万人規模のアリーナで、毎年300万人から400万人ぐらいをアリーナにお客さんとして来る計画を立てている。当然、電気を中心とする膨大なエネルギー使い、とんでもない量のゴミが出る。地球を観点に考えると、実は地球の資源をすごく使いまくる施設を僕らは新しく作ってしまうことになる。そこでMKKプロジェクトが掲げる循環型社会、いわゆる循環型アリーナを絶対に作らないといけない」と今後のビジョンを語った。

これについて三菱化工機の林氏は「できるだけ環境にやさしいアリーナにしたい。我々の技術で、下水道の排泄物、食物残渣、ハイクラシックスのメタンガスを抽出して、そこからエネルギーを作り出すというものもある。世界中にいろんなアリーナ、スタジアムあるが、まだそこまで行きついてないと思うので、我々はそこの世界初を目指してやっていきたい」と抱負を語った。今現在の構想では、アリーナの電力供給は、CO2を出さない水素と、太陽光などをミックスして補うものとのこと。世界最先端のサステナビリティ先進アリーナ開発への期待が高まっている。

ここで、水素エネルギーによる未来の麦芽「川崎エール」が紹介された。この「川崎エール」は川崎で建築設計・施工業などを行う明治27年創業の「岩田屋」4代目が始めた地ビールの醸造所「東海道BEER川崎宿工場」が、今回の『MKKプロジェクト』とコラボして作ったもの。売上の一部を川崎市民に寄付するなどの取り組みも行う。林氏は「いずれにしても、楽しくなければエコノミーも付いてこない。楽しくて経済的で社会の役に立つことをこれからどんどんインストールしていきたい」と語った。
今回『MKKプロジェクト』では2つの取り組みが紹介されたが、今後もベンチャーなどさまざまな協業を進行予定とのこと。循環型社会の実現に向けた新しい取り組みを行う三菱化工機の動向や、環境に配慮した新アリーナが作られる川崎の街の今後の盛り上がりにも注目していきたい。