スマートフォンの普及とともに、人々の映像視聴スタイルは劇的に変化しました。数年前まで主流だった長編ドラマや映画に加え、いまでは通勤・通学の合間や寝る前の数分など、「スキマ時間」に楽しめるショート動画が日常的な娯楽となっています。とりわけ近年注目を集めているのが、1〜3分で完結する“ショートドラマ”です。短いながらも物語性があり、連続して視聴できる点がユーザーの心をつかんでいます。
日本能率協会総合研究所によると※、日本のショートドラマ市場は2024年に約100億円(前年比400%増)に達し、2029年には470億円規模へと拡大すると予測されています。SNSを中心にショート動画文化が定着した今、ユーザーは「短い時間でも感情を動かす体験」を求めるようになりました。一方で、そうしたニーズに応えられる“高品質なストーリーテリング”を提供する専門プラットフォームは、まだ多くありません。その空白を埋めるかのように登場したのが、グローバルショートドラマアプリ「Kanta(カンタ)」です。
※株式会社日本能率協会総合研究所 マーケティング・データ・バンクより引用
https://mdb-biz.jmar.co.jp/20250516
アプリひとつで楽しむ、“濃縮型ドラマ”という新しい娯楽
「Kanta(カンタ)」は、韓国のRIDI Corporationが開発・運営する縦型ショートドラマ専用アプリで、2025年4月に日本でローンチされました。スローガンは「本格派ショートドラマ見放題」。1話およそ1分という短い時間の中で、感情の起伏や物語の転換を緻密に設計し、深い没入感を生み出しています。
アプリでは、ラブコメディ、ファンタジー、ミステリー、復讐劇、アクションなど多様なジャンルのオリジナル作品が毎週新たに公開されます。ログイン不要で視聴を始められる手軽さと、サブスクリプションによる高品質な作品提供を両立しているのも特徴です。スキマ時間を楽しむライトユーザーから、K-ドラマのファン層まで幅広く支持を集めており、リリース後はダウンロード数・新規会員数ともに順調に伸び続けています。わずか数分で観る者を物語の世界へと引き込む構成は、「ショートドラマの文法を再定義した」と業界内でも注目を集めています。
Kanta(カンタ)公式サイト:https://kantashort.com/
“感情を1分に圧縮する” K-コンテンツが描く短編の美学
Kantaの強みは、韓国ドラマの成功法則をショートフォーマットに落とし込んだ構成力にあります。韓国ドラマが世界的に評価される要因のひとつは、緻密な脚本と感情表現の巧みさにあります。Kantaはそのエッセンスを1分前後の映像に凝縮し、視聴者が一瞬で物語に没入できるよう設計されています。さらに、RIDIが長年培ってきたウェブトゥーンや電子書籍分野の知見を活かし、既存人気IP(知的財産)をショートドラマとして再解釈する試みも進めています。これにより、従来のファン層を巻き込みながら、新しい映像表現を次々と生み出しています。
制作においては、日本の現地チームと積極的に行われており、文化的な親和性を高める工夫が随所に見られます。韓国発の高品質な映像演出と日本のストーリーテリングが融合することで、より多様で豊かなショートドラマ体験を実現しています。
SNSでも話題沸騰、「電脳サラリーマン、チョン課長。」が牽引
サービス開始からわずか数か月ながら、Kantaはすでに複数のヒット作品を生み出しています。代表作のひとつ「電脳サラリーマン、チョン課長。」では、人気お笑い芸人チョン・ジュナ氏とK-POPグループ「ATEEZ」のユンホ氏が共演し、公開当日にはプラットフォーム内で視聴ランキング1位を記録しました。SNS上でも話題となり、関連ワードがX(旧Twitter)のトレンド上位に複数ランクインするなど、オンラインとオフラインの両面で注目を集めました。さらに、「19アゲイン母は正義の味方」や「私の一日婚約者」など、オリジナルIPの作品も継続的に人気を集めており、ローンチ以降の視聴上位にランクインし続けています。7〜9月期には平均視聴時間が前期の2倍以上に伸びるなど、ユーザーの滞在時間も着実に増加しています。
こうした結果は、短尺映像であっても“ドラマ的な満足度”を感じられる設計が、多くの視聴者に受け入れられていることの証左といえるでしょう。
韓国初のユニコーン企業・RIDIが仕掛ける“物語の輸出”戦略
Kantaを展開するRIDI Corporationは、ウェブ小説やマンガ、電子書籍など多彩なコンテンツを世界175か国に配信するグローバル企業です。2009年に韓国で設立され、2022年には企業価値約1,600億円を達成。韓国コンテンツスタートアップとして初のユニコーン企業となりました。また、東京証券取引所が主管する「TSEアジアスタートアップハブ」に2年連続で選定されるなど、アジア市場の連携強化を担う存在としても期待されています。映像・出版・デジタルメディアを横断した事業展開を通じ、RIDIは「アジア発のストーリー経済圏」の確立を目指しています。Kantaはその中核を担うプロジェクトとして、グローバルな映像市場で新たなポジションを築こうとしているのです。
“時間の価値”を問い直す、Kantaが生む新しい物語体験
Kantaの登場は、映像文化の中で“時間の価値”を問い直す動きの象徴といえます。短い時間でも心を動かす物語をつくる——それは、映像制作者にとっても新たな挑戦であり、視聴者にとっても新しい発見の連続です。
韓国ドラマが世界中で愛されてきたように、Kantaが目指すのは“短いけれど深い”ストーリー体験を通して、言語や国境を越えた共感を生み出すこと。映像消費が加速する現代において、Kantaが提示する「新しい文法」は、物語を語る手段そのものを変えていく可能性を秘めています。
ショートドラマ市場の拡大とともに、Kantaがどのようにこの文法を進化させていくのか——今後の動向から目が離せません。
