京都府北部にある与謝野町の「ちりめん街道」は、江戸から昭和初期にかけて高級絹織物「丹後ちりめん」で栄えた町並みが今も残る場所です。瓦屋根の商家が立ち並ぶ通りを歩けば、かつてのにぎわいや人々の暮らしの息づかいが感じられ、まるで時間がゆっくり流れているような感覚に包まれます。
そんな「ちりめん街道」が、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されてから20周年を迎えます。節目を記念して、2025年11月24日(月・祝)に記念イベント「人と時、つなぎ織りなす ちりめん街道」が開催されます。
当日は、地域の小学生による発表を交えたトークセッション、建物の外壁を彩るプロジェクションマッピング、そしてギターと踊りのフラメンコライブなど、多彩なプログラムが予定されています。かつての「ものづくりのまち」に息づく情熱と文化を、音楽や光を通じて感じることができる特別な一日となりそうです。
ちりめん街道とは──織物の歴史が息づくまち並み

京都府与謝野町にある「ちりめん街道」は、江戸から昭和初期にかけて日本の絹織物産業を支えた“丹後ちりめん”の発祥地として知られています。通りには、当時の織元や問屋として栄えた商家が立ち並び、瓦屋根や格子戸のある町家が今も美しく残っています。歩くだけで、どこか懐かしい時代の息づかいを感じられる場所です。
この一帯は、平成17年に国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定され、住民と行政が協力して保存活動を続けています。古い建物がただ保存されているのではなく、実際に人々の暮らしの中で息づいているのが特徴です。店舗や資料館として利用されている建物も多く、地域の日常と歴史が自然に溶け合っています。
「ちりめん街道」という名前は、丹後ちりめんの隆盛とともに町の繁栄を支えたことに由来します。江戸時代には京都や大阪へ織物を運ぶ商人たちでにぎわい、明治・大正期には近代化を象徴する洋風建築も建ち始めました。古民家の趣と洋館のモダンさが同居する町並みは、他ではなかなか見られない独特の景観です。
今では、まち歩きや写真撮影を楽しむ観光客も多く訪れ、かつての「ものづくりのまち」が新しい形で注目を集めています。歴史を守りながら、時代とともに変化し続ける——それが「ちりめん街道」の大きな魅力です。
国指定重要文化財・旧尾藤家住宅──織物商家の面影を残す邸宅

「ちりめん街道」の中ほどに佇む旧尾藤家住宅(きゅうびとうけじゅうたく)は、江戸時代から続く縮緬(ちりめん)繊維問屋の建物として知られています。1860年代に建てられた主屋を中心に、時代ごとの改修や増築を重ね、現在に至ります。建物はもともと現在の兵庫県豊岡市にあったものを移築したとされ、但馬と丹後それぞれの民家の特徴を巧みに取り入れた造りが特徴です。
外観は白壁と格子が美しく、往時の商家らしい重厚な趣を漂わせています。屋内に入ると、吹き抜けの梁や土間の構造、座敷の間取りなど、伝統的な日本建築の美しさが随所に見られます。また、1930年には2階部分に洋風の応接室が増築され、和と洋が融合した独特の雰囲気を生み出しています。

この建物は、丹後ちりめんが日本の絹織物産業を代表する存在として発展していった歴史を物語る貴重な遺構です。その価値が高く評価され、令和6年1月に国の重要文化財に指定されました。今も地域の象徴として保存されており、見学を通して当時の暮らしや商いの様子を感じ取ることができます。
歴史を守りながらも、ただの「古い家」では終わらせない。旧尾藤家住宅は、ちりめん街道の文化を今に伝える“生きた建物”として、訪れる人々に静かな感動を与えています。
京都府有形文化財・旧加悦町役場庁舎──地域の象徴が舞台になる

「旧加悦町役場庁舎(きゅうかやちょうやくばちょうしゃ)」は、昭和初期のモダンな建築様式が印象的な建物です。もともとは、昭和2年の大震災で倒壊した庁舎の跡地に、昭和4年(1929年)に再建されたものです。淡いベージュの外壁と左右対称のデザインが印象的で、時代の移り変わりを経てもなお、堂々とした佇まいを見せています。

建物は、平成から令和にかけての保存改修工事により大きく生まれ変わりました。腐朽していた床や車寄せなどを修復し、耐震補強や設備更新を行ったことで、現在では一般公開される文化施設として再び息を吹き返しています。内部には、かつて議会が開かれていた2階議場や、庁舎として使われていた1階フロアが残り、当時の雰囲気をそのまま感じられます。
この庁舎は「ちりめん街道」の北端に位置し、伝統的な町並みを見守る象徴的な存在でもあります。令和2年には京都府の有形文化財に指定され、地域の歴史を語り継ぐ重要な建物として位置づけられました。
そして今回、選定20周年記念イベント「人と時、つなぎ織りなす ちりめん街道」のメイン会場にもなるこの庁舎。文化財でありながら、今も人が集い、音楽やトークが響く“生きた空間”として活用されている点に、この地域の魅力が凝縮されています。過去を守りながら、未来へつなげる。そんなまちづくりの象徴的な場所です。
11月24日、20周年記念イベント開催──文化を未来へつなぐ一日

与謝野町の「ちりめん街道」が重要伝統的建造物群保存地区に選定されてから、2025年で20年。
その節目を祝う記念事業「人と時、つなぎ織りなす ちりめん街道」が、2025年11月24日(月・祝)に開催されます。会場は、ちりめん街道の象徴でもある旧加悦町役場庁舎。歴史ある建物を舞台に、トークや音楽、映像を通して地域の文化と未来を感じるプログラムが予定されています。
午後3時30分からは、「20年 一歩一歩、さらに一歩」と題したトークセッションを実施。他の伝建地区の関係者や地元小学生による探究発表を交えながら、これまでの歩みと次の世代への継承について語り合います。地域の歴史を守る取り組みを、未来へどうつないでいくかを考える貴重な機会となりそうです。
日没後には、旧庁舎の外壁をスクリーンに映し出すプロジェクションマッピングを上映。ちりめん街道の情景や20年間の歴史を映像で表現し、幻想的な光の演出で夜の街を彩ります。続いて、地元ゆかりの音楽家・尾藤大介さんによるフラメンコライブも行われ、ギターと歌、舞踏が織りなす迫力あるステージが予定されています。
また、京都府事業として開催される「Music Fusion in Kyoto 音楽祭」も、与謝野町会場として同日実施。旧庁舎と浄福寺の2か所で行われるライブには、町内外の音楽ファンからも注目が集まりそうです。
過去と未来をつなぐ特別な一日。建物も人も、そして文化も、時を超えて新たな物語を紡いでいく。そんな記念すべき節目にふさわしい催しとなっています。
まちの記憶を未来へ紡ぐ

与謝野町の「ちりめん街道」は、かつて織物の音が響き、人々の暮らしとともに栄えた場所です。今もその面影を残す町並みには、丹後ちりめんが育んだ文化と誇りが息づいています。歴史ある建物を守りながら、そこに新しい命を吹き込む今回の記念事業は、まさに“文化の継承”を形にしたものといえるでしょう。
地域の小学生から音楽家まで、幅広い世代が関わる今回のイベントには、単なるお祝いを超えた意味があります。人と人がつながり、時を越えて思いを紡ぐ——その積み重ねが、この町の未来を形づくっていくのだと感じさせてくれます。
静かな通りに灯る光、庁舎に響く音楽、語り合う人々の笑顔。そこにあるのは、過去を懐かしむだけではなく、次の時代へ希望を渡していこうとする温かいまなざしです。
20年という節目を迎えた「ちりめん街道」は、これからも多くの人の手によって織り重ねられ、未来へと続いていきます。
京都府与謝野町について

京都府北部の丹後半島に位置する与謝野町は、約2万人が暮らす自然豊かなまちです。大江山連峰の山並みと野田川流域の田園、そして天橋立を望む阿蘇海が織りなす風景は、四季折々に美しい表情を見せます。
古くから「丹後ちりめん」に代表される織物業で発展し、現在も伝統とものづくりの精神を大切にしています。近年では、有機肥料「京の豆っこ」を活用した自然循環農業や、国産ホップの栽培など、新しい取り組みも進んでいます。
子育て支援にも力を入れており、自然と人の温かさが調和するまちとして注目されています。
