目の見えにくい人が未来のメガネで景色を“聞いたり”、体が動かせない人が視線だけでゲームを楽しんだり。そんなちょっと先の未来が、まるで小さな町のように再現された場所が、大阪・関西万博に登場しています。テーマは「DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)」。さまざまな人が、違いを尊重しながら共に生きる社会のかたちを体感できる展示「DEI TOWN(ディーイーアイタウン)」が、三菱UFJ銀行の取り組みとしてスタートしました。
この展示では、大企業ではなく、中小企業やスタートアップが主役です。奨学金、メンタルヘルス、歩行支援、AI英会話、視線操作など、それぞれの分野で「誰かの困りごと」に向き合う7社が出展し、自分たちの技術で未来の社会にどんな可能性があるかを提案しています。
クイズでタマゴを集める周遊型コンテンツや、ARフォトフレームなど、遊び心ある仕掛けもあり、展示の枠を越えて、体験しながら学べる工夫が随所に施されています。いま注目が高まるDEIを、技術の力でどう実現していけるのか。そのヒントが、ここには詰まっています。
DEI TOWNが描く未来の社会

誰もが自分らしく生きられる社会とは、どんなかたちなのでしょうか。大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンに誕生した「DEI TOWN」は、その問いにテクノロジーと共創の力で答えようとしています。
DEIとは「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン」の略で、ちがいを認め合い、平等に機会があり、誰もが安心して社会に参加できることを目指す考え方です。「DEI TOWN」では、このテーマをもとに、さまざまな課題に向き合う中小企業やスタートアップが、技術やアイデアを活かした展示を行っています。
開催場所は、大阪ヘルスケアパビリオンの1階にある「リボーンチャレンジ」ゾーン。展示期間は2025年7月29日から8月4日までの1週間で、事前予約なしで自由に立ち寄ることができます(万博会場への入場には来場日時の予約が必要です)。
誰かの「困った」を技術で解決する。そんな未来の姿を、来場者が自分の目と体で感じられる空間となっています。
遊びながら学べるDEI体験

「DEI TOWN」の魅力は、展示を見るだけでなく、実際に体験しながら学べる仕掛けが用意されていることです。そのひとつが「Egg Quest(エッグクエスト)」と呼ばれる周遊型コンテンツです。
これは、展示の中にちりばめられたクイズに答えて“タマゴ”を集めていくという仕組みで、正解すると会場限定のARフォトフレームがもらえる特典もあります。タマゴをモチーフにしているのは、「命」や「可能性の芽」を象徴しているのかもしれません。
また、展示エリア全体にはストーリー仕立てのビジュアルや導入動画も用意されており、会場全体を“ひとつの物語”として楽しめるように設計されています。
こうした体験型の工夫により、DEIという少し難しそうに聞こえるテーマも、自然と理解が深まるようになっています。子どもから大人まで立場や世代を問わず、楽しめる構成になっている点も印象的です。
技術で支える未来社会(前編)
今回の展示には、未来の社会を支えるために独自の技術やサービスを開発している中小企業・スタートアップ7社が参加しています。前半は、そのうち4社の取り組みを紹介します。
株式会社ガクシー

奨学金情報サイトを通じて、夢をあきらめない若者を支援。展示では、奨学金で進学した学生の声やクイズ、アート作品を通じて教育の可能性を伝えています。
株式会社COMARU

気持ちの状態を可視化するアプリを開発。発達特性の有無にかかわらず、自分の“心のバッテリー”をチェックでき、家族や支援者とのつながりをサポートします。
コンピュータサイエンス研究所コンソーシアム

視覚に障がいのある人を支援する歩行ナビアプリを展示。音声で信号の色や障害物を知らせる機能により、安心して街を歩ける未来の姿を提案しています。
株式会社システムギアビジョン

生成AIを活用した「未来のメガネ」を紹介。ボタン操作だけで画像を撮影し、AIが音声で内容を説明してくれるため、見えにくい人でも使えるデバイスを体験できます。
技術で支える未来社会(後編)
続いては、残りの3社の取り組みを紹介します。身体の制約や言語の壁、そして将来への不安に寄り添う技術が集まっています。
日新電機工作株式会社

視線だけで操作できる「お買い物ゲーム」を展示。体が動かしにくい人でも、目の動きで意志を伝える未来が当たり前になる世界を体感できます。
HelloWorld株式会社

AIとの英会話と、海外の子どもたちとのリアルタイム交流を組み合わせた教育プログラムを紹介。万博をテーマにした国際的なやりとりが会場で体験できます。
BeLiebeコンソーシアム

女性のライフプランに寄り添う展示として、卵子数の変化をテーマにした砂時計型コンテンツを展開。検査や対話を通じて「これから」を考えるきっかけを提供します。
中小企業の挑戦が描く、未来社会のかたち

大きな会場や華やかな演出だけが万博の魅力ではありません。今回の「DEI TOWN」で特に印象的なのは、出展しているのがいずれも中小企業やスタートアップであることです。
それぞれの企業は、誰かの「困っている」に向き合い、技術やアイデアで課題を解決しようとする姿勢を持っています。大企業のように大規模な資本はなくても、柔軟な発想やスピード感を武器に、社会に必要なソリューションを生み出しています。
展示で紹介されたアプリやデバイスは、すでに実用化が進んでいるものも多く、単なる未来のビジョンにとどまりません。そこには、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が示す「技術によって社会をよりよく変えていく」という実践的な取り組みが確かに存在しています。
こうした企業のチャレンジが、多様性に満ちたミライ社会の実現を一歩ずつ前に進めているのではないでしょうか。
技術がつなぐ、共感と行動の輪
社会課題や人の多様性に真正面から向き合い、それをテクノロジーで支えようとする企業たち。DEI TOWNの展示には、そんな強い意志と現実的なアプローチが詰まっていました。
どれも華やかなプレゼンテーションではなく、静かに、しかし確実に誰かの生活に寄り添う提案ばかりです。展示を見た人が何かを感じ、考え、誰かと共有したくなる。そんな「気づきの連鎖」が、これからの社会を少しずつ変えていくのかもしれません。
一人ひとりが異なる背景を持ちながら、同じ未来をつくっていく。そのスタートラインが、この展示空間には広がっています。