いまや大人の間ではすっかり日常となったキャッシュレス決済。その波は、子どもたちの暮らしにも着実に広がっているようです。TIS株式会社が行った「親子のキャッシュレス調査」では、子どもにとって安全な支払い手段として「キャッシュレス決済」を支持する声が現金を上回ったという結果が明らかになりました。
この調査は、15〜69歳の男女700人を対象に、キャッシュレス決済の利用状況や意識を探ったものです。注目すべきは、「キャッシュレスお小遣い」への賛成が全体で半数を超えたこと。とくに20〜30代の若い親世代では、子どもの金銭教育の観点からもキャッシュレス導入に前向きな姿勢が目立ちました。
とはいえ、利便性だけでなく「金銭感覚が育ちにくいのでは」という不安も、調査を通じて明らかになっています。デジタル世代の子どもたちにとって、現金を持たない買い物は自然な行動になりつつありますが、それをどう教え、見守るかは、これからの親世代に問われるテーマなのかもしれません。
調査結果を通じて見えてきたのは、キャッシュレスの進化だけでなく、親子の価値観や教育のあり方にも変化が訪れているという現実です。
子どもたちの“キャッシュレス時代”を見据えた調査が行われた背景
キャッシュレス決済が急速に浸透するなか、子どもたちの間にもその波は確実に広がっています。こうした背景を受け、ITサービスを手がけるTIS株式会社は、全国の15〜69歳の親子を対象に、キャッシュレス決済の利用実態や意識を明らかにする調査を行いました。
この調査は、キャッシュレスが日常生活でどう活用されているかに加え、“子どもとキャッシュレス”という視点に注目した点が特徴です。経済産業省が発表した最新データによると、2024年の国内キャッシュレス決済比率は42.8%と初めて4割を超え、今後は8割を目指して環境整備が進められています。
TISはこの動きに対し、「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)」の視点から、より多くの人が安全かつスムーズにキャッシュレスを利用できる社会を目指して取り組んでいます。今回の調査は、そうした同社の社会的関心の一環として行われたものであり、キャッシュレス社会における次世代の在り方を考える一助となるものです。
子どもにとって“安全な支払い”はキャッシュレス?

今回の調査でまず注目されたのは、「子どもが利用するうえで安全だと思う支払い手段」についての回答結果です。調査対象者全体の57.9%が「キャッシュレス決済」と答え、「現金」の41.6%を上回る結果となりました。
特に20代の親世代では、キャッシュレスが安全だとする回答が多数を占め、「現金」と答えた割合はわずか22.0%にとどまりました。デジタルネイティブ世代を親に持つ子どもたちにとって、キャッシュレス決済はすでに身近な存在であることがうかがえます。
また、家庭内でキャッシュレスに関する教育をしているかどうかでも傾向に差が見られました。教育を受けていない家庭では「現金」が安全という回答が5割を超えたのに対し、親子でキャッシュレスに関するセミナーなどに参加している家庭では、「現金」と答えた人は3割以下にとどまりました。キャッシュレスを前提とした教育の有無が、親の意識に少なからず影響していることが分かります。
さらに、子どもがキャッシュレス決済を使い始めた年齢の平均は13.3歳という結果も出ており、多くの子どもたちが中学生の時点で現金以外の決済手段に触れていることが明らかになりました。
キャッシュレスで渡すお小遣いに賛成の声多数 若年層の親ほど前向きな傾向も

子どもにお小遣いを渡す手段として「キャッシュレス」を使うことについて、調査では「賛成」または「どちらかといえば賛成」と答えた人が全体の58.9%にのぼり、過半数を超える結果となりました。反対派は13.1%にとどまり、賛否が分かれるというよりも、むしろ一定の支持が広がっている様子がうかがえます。
なかでも注目されるのは20~30代の親世代の意識です。この層では賛成派が6割を超えており、「子どもへの金銭教育に役立つ」「使いやすく管理もしやすい」といった理由から、キャッシュレスお小遣いに前向きな姿勢が強く見られました。特に20代の親では、「子どもに金銭管理を教えるために有効」という理由が最多で、教育的な価値を重視する傾向が明確です。

また、月々のキャッシュレスお小遣いの「許容額」についても興味深い結果が出ています。小学生低学年で平均949.9円、高学年で1,899円、中学生で3,482.5円、高校生になると6,703.7円と、年齢に応じた金額設定がされており、10歳未満の子どもに対しても、キャッシュレスでのお金のやり取りがある程度許容されている実態が明らかになりました。
このように、キャッシュレス決済は単なる利便性の提供にとどまらず、子どもたちの金銭感覚や管理能力を育てるツールとして期待されつつあるようです。
広がるキャッシュレスの利便性 その裏で問われる“金銭感覚”と教育のあり方

キャッシュレスお小遣いに対して肯定的な意見が広がる一方で、親世代からは子どもがキャッシュレス決済を利用することへの懸念の声も少なくありません。
調査では、「金銭感覚が身につかないことへの懸念」が34.0%、「子ども同士の金銭の貸し借り」が33.0%、「親の許可を得ていない買い物」が32.8%、「アプリやゲームへの課金」が32.0%と、さまざまな不安要素が挙がりました。目に見える現金のやり取りと違い、キャッシュレスでは支払いの実感が薄れやすいため、無自覚な使いすぎを心配する親は多いようです。
それでも、キャッシュレス決済が子どもの金銭感覚に「良い影響がある」と感じている人は45.8%と、懸念(14.4%)を大きく上回りました。使い方によっては、記録が残り、支出を管理しやすいキャッシュレスは、むしろ金銭管理能力を高める可能性もあると考えられています。

こうした中で、「キャッシュレス利用に関する教育は必要」と答えた人は全体の69.0%にのぼりました。実際に家庭で教育を行っているという親は7割以上おり、「使い方のルールを決めている」「お金の価値について話している」など、さまざまな形で取り組みが進められています。
また、20代の親では5人に1人がセミナーや勉強会に親子で参加した経験があると回答しており、若年層ほどキャッシュレス教育への関心が高いことも浮き彫りになりました。

教育のタイミングについては「小学校からが望ましい」と考える人が54.2%と最多で、利用開始の平均年齢(13.3歳)よりも早期からの学びが求められている実態が見て取れます。
一方で、「学校での教育が十分」と感じている人は全体の2割程度にとどまり、家庭への負担が偏っている現状も、今後の課題として考える必要があるかもしれません。家庭と学校の双方で、キャッシュレスを含む金融教育の整備が求められる時期に来ているのかもしれません。
子どもたちの“はじめての経済体験”をどう支えるか
キャッシュレス決済が当たり前になりつつある現代、子どもたちの生活にもその影響は確実に及んでいます。今回の調査では、安全性や利便性の観点から、親世代の多くがキャッシュレスを前向きにとらえている一方で、金銭感覚の育成や教育のあり方については、まだ明確な方向性が定まっていない実態が浮き彫りになりました。
目に見える現金を使わない時代において、お金の価値をどう伝え、どう学ばせていくか。これは家庭だけでなく、社会全体で考えていくべき課題です。親が見守り、子どもが自ら判断するための「余白」をどう残していくのか。キャッシュレス化の進展は、単なる技術革新にとどまらず、次世代の育ち方に深く関わるテーマとして、今後ますます注目されていくでしょう。