介護業界の人手不足と聞けば、まず思い浮かぶのは「介護職を希望する人が少ない」「必要な人数を採用できない」といった問題ではないでしょうか。
実際、介護の担い手不足は今後さらに深刻になるとみられています。厚生労働省によると、2022年度に約215万人だった介護職員は、2040年度には約272万人が必要になると推計されています。2022年度と比べて約57万人多い計算です。
新たな担い手をどう増やすかは大きな課題です。一方で、すでに介護の資格や経験を持ちながら、育児や家庭の事情、本業との兼ね合いなどからフルタイムでは働けない人もいます。「週に1日なら」「空いている数時間なら」と、働く余地を残している人たちです。
カイテク株式会社が注目したのは、こうした有資格者が持つ、まだ活用されていない時間でした。同社ではこれを「埋蔵時間」と呼んでいます。介護・医療領域に特化したワークシェアリングサービス「カイテク」は、この「埋蔵時間」と、人手を必要とする介護事業所をつなぐサービスです。
9月25日に行われたメディア向けラウンドテーブルでは、カイテク株式会社 代表取締役社長の武藤高史氏と、サービスを導入する株式会社SOYOKAZE 人事部採用チーム部長の大橋邦彦氏が登壇。介護現場の人材不足の実情や、スポットワークの活用によって現場にどのような変化が起きているのかを語りました。
「人数」だけではない介護現場の人手不足
介護人材不足というと、施設全体で常に職員が足りていない状況を想像しがちです。しかし、武藤氏が現場から聞いている声は、それだけではありません。
「365日24時間、介護事業所がずっと人が足りないという状況ではないんですよね」
例えば、
・朝食の介助が集中する朝6時から9時に人が欲しい。
・入浴介助のある日だけ人数を増やしたい。
・夜勤に入れる職員が少ない。
・職員の休みが重なり、残業が前提になっている。
同じ法人の施設でも、人手が不足する時間や業務は異なるといいます。そこでカイテクが着目したのが、「数時間なら働ける」という有資格者の埋蔵時間です。
武藤氏によると、カイテクで働く人の平均勤務回数は月4.6回ほどで、1回の勤務は平均約6時間。週1回程度働く人が多いといいます。フルタイムで働く一人を新たに確保するだけでなく、有資格者が持つ数時間を、必要な時間や業務に充てていく。人材不足を「人数」だけでなく「時間」で捉える仕組みです。

単発の“穴埋め”ではなく「地域の専門職ネットワーク」を作る
ただ、スポットワークと聞いて気になるのが、毎回違う人が施設にやって来るのではないかという点です。
介護では、食事や入浴、排泄など利用者の身体に直接触れる仕事もあります。施設によって仕事の進め方も異なり、利用者との関係もあります。単に空いたシフトを埋めればいいだけの仕事ではありません。
カイテクが目指しているのは、単発の人材を次々と送り込むことではなく、「地域の専門職ネットワーク」を作ることだと武藤氏は説明します。一度働いた施設で繰り返し勤務し、施設の仕事や利用者を知る人を地域の中に増やしていく考え方です。
ラウンドテーブルでは、2回以上同じ施設で働いたワーカーの割合は約90%。さらに、10回以上勤務したワーカーも7割を超えるとのデータが紹介されました。武藤氏は、1つの事業所に20人、30人と「顔なじみ」の専門職がいる状態を作り、必要なときにそのネットワークから人手を確保できる形を目指していると話します。
スポットワークという言葉から受ける「毎回違う人が来る」というイメージとは、少し違います。同じ施設で繰り返し働く人を増やし、その地域に「顔なじみ」の専門職を増やしていく。武藤氏が語る「地域の専門職ネットワーク」は、こうしたリピート勤務を土台にしています。
「ちゃんと来てくれるのか」現場の不安から採用につながるまで
もちろん、仕組みがあっても、実際に高齢者と接する現場が安心して受け入れられるかは別の問題です。
株式会社SOYOKAZEでは、カイテクを導入する以前、派遣人材を積極的に活用していました。派遣にかかるコストが膨らんでいたことに加え、直接雇用による採用を強化したいという狙いもあり、カイテクの利用を始めたといいます。
しかし、導入時には現場から不安の声も上がりました。大橋氏は当時をこう振り返ります。
「導入するタイミングは非常に不安が大きかったです。ちゃんと来てくれるのか。その方のスキルも人柄も分からないので、『ちゃんとした人なのかな、大丈夫なのかな』という心配はありました」

さらに、初めて来る人に何を任せ、どのように受け入れるのか。施設側にも戸惑いがあったそうです。
「カイテク」は介護・医療関連の有資格者が仕事に応募できるサービスです。事業所とともに任せる業務を切り出し、勤務後には事業所と働き手が互いに評価する仕組みも設けています。
武藤氏が強みの一つとして挙げたのが、現場をサポートするカスタマーサクセスの存在です。単にアプリ上でマッチングするのではなく、事業所の状況に合わせて業務の切り出しや受け入れ方まで支援します。大橋氏によると、SOYOKAZEを担当したカスタマーサクセスのスタッフは、現場の職員から同社の社員と間違われるほど施設に入り込んでいたそうです。
導入後は、派遣人材の利用を従来の約3分の1まで削減。さらに現在では、毎月の採用人数の約2割が、カイテクで勤務した人からの直接雇用につながっていると大橋氏は話します。
スポット勤務であれば、施設側はその人の仕事ぶりを見ることができます。働く側も、職場の雰囲気や一緒に働く人、実際の業務を経験したうえで、その施設で継続して働くかを考えられます。双方が希望すれば直接雇用に移ることも可能で、武藤氏によると、その際に紹介料は発生しないといいます。
採用してから相性が合わないことが分かるのではなく、実際に一緒に働いたうえで雇用を考えられる。スポット勤務が、採用の入り口としても使われているわけです。またSOYOKAZEでは、お盆など子育て中の職員が休みを取りたい時期にカイテクを利用する事業所もあるそうです。不足するシフトを補うことで、既存の職員が休みを取りやすくするという使い方です。
外部の人が施設に入ることで、普段の仕事を見直すきっかけにもなります。複数の施設で働いている人から「別の施設ではこんな介助をしている」といった話が出ることもあるそうです。武藤氏は、こうした外部との接点によって、施設から施設へ知識や経験が伝わる「知の流通」にも期待しています。

正社員、パート、外国人材……スポットワークはどこを担うのか
介護現場を支えているのは、スポットワーカーだけではありません。正社員、パート・アルバイト、派遣社員に加え、外国人材も介護現場で働いています。今後の人材不足を考えれば、新たな担い手を増やす取り組みは引き続き必要です。その一方で、資格や経験があっても、さまざまな事情からフルタイム勤務を選べない人もいます。
大橋氏は今後について、専門的なスキルを持つ人が継続して担う仕事と、経験者や新たに介護業界へ入る人が担当できる仕事を切り分け、事業者側が働き方そのものを設計していく必要があると話しました。
正社員、パート、外国人材、スポットワーカー。それぞれをどう組み合わせ、必要な時間に必要な人を配置するのか。2040年に向けて、人材を「採用する」だけでなく、働き方や業務の組み方そのものを考える必要がありそうです。
「人手不足がない世界」を目指して
カイテクが目指しているのは、スポットワークのマッチングを増やすことだけではありません。
現在は介護職や看護師に加え、薬剤師や医師にも対象を広げています。さらに、シフト管理サービス「カイテク・シフト」を展開。各施設のシフトを可視化し、人手が足りない時間や場所を把握することで、将来的には全国レベルで人員配置を最適化する構想も描いています。
武藤氏が繰り返したのは、「人手不足がない世界」を作りたいという思いでした。
「有資格者の方々が全員カイテクのアプリを使っていて、それぞれ勤務の回数に濃淡があるかもしれませんけど、1日も早く全国にこのサービスを届けて、10年後ぐらいに『全然人手不足じゃないな』という言葉が生まれるぐらいの世界を日本で作りたい」
さらに、その先に掲げるのが「世界一幸せな超高齢社会」です。
「人類未踏の超高齢社会を成功に導く。その成功というのは、世界一幸せな超高齢社会を作っていくことです」
介護の担い手そのものを増やす。外国人材を受け入れる。現在働いている職員が離職しない環境を作る。そして、すでに資格や経験を持つ人の「働ける時間」を生かす。
介護人材不足への対策は一つではありません。その選択肢の一つとして、これまで活用しきれていなかった有資格者の「埋蔵時間」を地域の介護現場で共有する。カイテクが掲げる「地域の専門職ネットワーク」が、今後どこまで広がっていくのか注目です。
カイテク株式会社
https://corp.caitech.co.jp/
