8月23日、真夏の強い日差しが降り注ぐ中、味の素スタジアム前はいつものサッカー観戦とは異なる賑わいを見せていた。この日行われたのは、明治安田J1リーグ第27節「東京ヴェルディ vs サンフレッチェ広島」の試合。しかし、試合開始の数時間前から、スタジアム周辺には既に多くの人々が集まり、熱気と期待感が入り混じる空気に包まれていた。その理由は、アジパンダ広場で催された「サマーフェスティバル」だ。
音楽や笑い、パフォーマンスが織り交ぜられたステージイベントは、サッカーファンだけでなく、家族連れや子どもたちにとっても魅力的な時間となった。スタジアムに行けば試合だけでなく一日を楽しめる──。そんな新しい観戦スタイルを提案するかのように、フェスティバルは観客を惹きつけてやまなかった。
MCとマスコットが生み出す高揚感

イベントの幕開けを飾ったのは、MCを務めた勝野みなみの登場だ。軽快な音楽に合わせて彼女がステージに現れると、会場からは拍手と歓声が湧き起こった。続いてヴェルディの人気マスコット、リヴェルンとヴェルディくんが加わると、子どもたちの笑顔は一気に広がり、会場の空気がさらに温まった。
観客の視線はステージに集中し、イベントの始まりから一体感が芽生えていた。猛暑の中でも足を運んだ来場者にとって、冒頭から待っていたのは「ただの前座」ではなく、試合を前にした心を弾ませる演出であった。
パフォーマンスでつながる観客の熱

続いて登場したのは、東京ヴェルディのチアチーム「VERDY VENUS」。彼女たちが披露したダンスは、一糸乱れぬ動きと華やかさで観客を魅了した。特に「東京ヴェルディポーズ」や「T」「K」「V」といったジェスチャーを観客とともに行う場面では、大人も子どもも笑顔で両手を掲げ、会場全体が一体となる瞬間が生まれた。

さらに、フリースタイルフットボールチーム「Stylers」がステージに登場。インサイド、アウトサイド、さらには「アラウンド・ザ・ワールド」といった高度なリフティング技術を次々と披露すると、観客からは驚きと感嘆の声が上がった。3人の息の合った動きは、まるでダンスのような完成度で、会場を釘付けにした。

一方で、場の熱気が落ち着いたタイミングでは、女子ホッケーチームの関係者が登場。ゼネラルマネージャー藤尾氏と松原氏のトークに観客は耳を傾け、会場は一転して真剣な空気に。華やかなステージにスポーツ全体の価値を重ねるようなひとときが訪れた。
笑いと音楽が彩ったステージ

一時落ち着きを見せた会場は、再び大きな拍手と笑い声に包まれる。人気お笑いコンビ「ラパルフェ」が、ヴェルディ仕様のユニフォーム姿で登場し、次々とモノマネを披露。特に城福浩監督のモノマネでは観客から大きな笑いが起こり、ステージは一瞬でお笑いライブさながらの雰囲気となった。

続いて、シンガーのHIPPYがステージに現れる。インターハイ2025のテーマソング『僕らのスタートライン』を披露すると、観客は自然と手拍子を重ね、広場全体が共鳴する。さらに『君に捧げる応援歌』では、その真っすぐな歌声に一瞬静寂が訪れ、来場者が歌声に引き込まれていた。そしてラストには「試合に向けて勝利の風を呼び込みましょう!」と観客に呼びかけ、タオルが一斉に回転。カラフルな布が宙を舞う光景は、会場全体の期待を最高潮に押し上げた。

フィナーレを飾ったのは、6人組アイドルグループ「Appare!」。明るくポップな楽曲『ぱぴぷぺ POP!』に合わせて元気いっぱいのパフォーマンスを繰り広げ、ステージ前にはこの日最多の観客が集結。観客も声を合わせ、手を振り、試合直前の興奮とともにイベントはクライマックスを迎えた。
サポーターをつなげたシリコンバンド

ステージイベントに加えて、来場者の一体感を演出したのが、先着15,000名に配布されたオリジナルシリコンバンドだ。同じアイテムを腕に付けた観客がスタジアムを埋め尽くす光景は、まさにフェスティバルならではの体験を象徴していた。サポーター同士が「同じ時間と場を共有している」ことを視覚的に実感できる仕掛けは、イベントをより特別なものにしたといえる。
スタジアムに広がる新しい観戦体験
今回のサマーフェスティバルが示したのは、スタジアムが「試合を観るだけの場所」ではなく、「一日を楽しむ空間」へと進化しつつあるという可能性である。音楽やパフォーマンス、お笑いといった多彩なエンターテインメントは、サッカーに馴染みのない層にも門戸を開き、子どもや家族連れにとっても忘れがたい非日常を提供した。
スポーツとエンタメを融合させたこの取り組みは、夏の暑さに負けない熱狂を生み、観客を試合前から惹きつけた。スタジアムが「観戦するだけの場」から「一体感を共有する場」へと変わり始めていることを実感させる一日だったといえる。次回はどのような仕掛けが用意されるのか──その期待が、新しい観戦文化の芽をさらに育てていくだろう。