2024年8月21日、東京・渋谷にて「未来を変える腸内革命 メディアラウンドテーブル」が開催されました。主催は、腸内マイクロバイオームに特化した韓国発バイオベンチャーHEM Pharma Inc.の日本法人、株式会社HEM Pharma Japan。同社は、個々の腸内環境に応じたプロバイオティクスを科学的に提案する「パーソナライズド・ヘルスケア・ソリューション」の提供に向け、日本での準備を進めています。
イベントでは、マイクロバイオーム研究の第一人者である建国大学医学部助教授 キム・ジュオン氏がその重要性を解説。さらに、日本における協業パートナーである日本アムウェイ合同会社のイリーナ・メンシコヴァ社長も登壇し、今後の展望を語りました。
「不必要な病気のない社会」を目指して
HEM Pharma Japanの代表取締役であるチ・ヨセフ氏は、主催者挨拶で会社のビジョンを語りました。HEM Pharmaは、微生物学の世界的権威であるホルツァプフェル教授とチ氏が「不必要な病気のない社会」という共通の夢を実現するために2016年に設立。免疫や脳機能、メタボリックシンドロームといった現代病の多くに、腸内マイクロバイオームが深く関わっているという確信から研究開発を続けてきました。
同社は韓国のKOSDAQ市場への上場を経て、2023年に日本法人を設立。チ氏は「植物由来の栄養食品で世界的に知られ、腸の健康にも精通しているアムウェイ社と協力し、個別化ヘルスケア産業の新時代を切り開いていきたい」と、日本アムウェイとの協業への期待を述べました。

専門家が語る「もう一人の私」マイクロバイオームの可能性
特別講演には、建国大学医学部助教授であり薬学博士のキム・ジュオン氏が登壇。「私の体の中のもう一人の私」と題し、マイクロバイオームの基礎から最新の研究動向までを分かりやすく解説しました。キム氏は、単に長生きするだけでなく、健康でいられる期間「健康寿命」を延ばすことが重要であり、その鍵をマイクロバイオームが握っていると指摘します。

マイクロバイオームとは?
私たちの体内外に存在する微生物全体のことで、その遺伝情報や代謝物までを含む広義の概念です。特に腸内には95%以上のマイクロバイオームが存在し、その数は人間の細胞数の約10倍、遺伝子情報は100倍以上にもなります。これらの微生物は、栄養代謝、免疫調節、脳との相関など、生命維持に不可欠な働きを担っています。
なぜ「個別化」が必要なのか?
人間のDNAは個人間で99.9%以上同じですが、マイクロバイオームの構成は10%も一致しないほど個人差が大きいとされています。また、DNAと違って食事や生活習慣によって常に変化するため、「一人ひとりに最適化された個別化戦略が不可欠」だとキム氏は強調。この個別化医療を実現するためには、「いかに多くの、質の良いデータベースを構築できるかが最も重要」と述べ、今後の研究の方向性を示しました。
データバンク構築の課題とHEM Pharmaの戦略
トークセッションでは、マイクロバイオーム研究を実用化する上で最も重要な「データバンク」について議論が交わされました。

キム氏は、質の良いサンプルを大量に集めることの難しさを指摘。チ代表もこれに同意し、「異なる分析手法では全く違う結果が出てしまう。標準化された手順(SOP)で膨大なデータを集めることが最大の課題」と述べました。AIによるアルゴリズム構築において、元となるデータが不正確では意味がない「ガベージイン、ガベージアウト」の状態に陥ってしまうからです。
この課題に対し、HEM Pharmaは世界中のどこで収集したサンプルでも単一のSOPを適用し、データの品質を担保。さらに、特許技術「PMAS(Pharmaceutical Microbiome Analysis Service)」により、単に「どの菌がいるか(メタゲノム)」だけでなく、「その菌が何をしているか(代謝物=メタボローム)」までを統合的に分析する世界最先端のデータベースを構築しています。2025年6月時点で保有するサンプルデータは95,000件を超えています。
チ代表は「この膨大なデータベースを活用し、個人の健康状態の把握だけでなく、将来の疾患リスクを予測するアルゴリズムを構築できる。これこそが、個別化に重点を置く未来のバイオヘルスケア産業の核となる」と力強く語りました。
日本アムウェイとの協業で描く未来
続いて、日本アムウェイのイリーナ・メンシコヴァ社長が登壇。今回の協業について「HEM Pharma社の画期的なPMAS技術と、日本で60万世帯以上の信頼を得ているアムウェイの広範なネットワークを組み合わせることで、世界最大かつ最も多様なマイクロバイオームデータベースの一つを創造できる」と大きな価値を見出していると語りました。

アムウェイは、植物由来の栄養学におけるリーダーとして、すでにプロバイオティクスや食物繊維製品で腸の健康分野において確固たる地位を築いています。イリーナ社長は「急速な高齢化が進む日本では、健康寿命の延伸は社会的な急務。マイクロバイオームは生活習慣で変えられるため、人生の後半でも積極的に健康を形作ることができる」と述べ、PMASで得られた知見を栄養、運動、睡眠などを組み合わせた包括的なウェルネスプログラムに統合していくビジョンを示しました。「HMファーマ社と共に、日本をマイクロバイオームに基づく個別化ヘルスケアの世界的リーダーにすることを目指す」と、力強いコミットメントを表明しました。
単なる「腸活」ブームを超え、科学的根拠に基づいた「個別化ヘルスケア」の新時代が幕を開けようとしています。HEM Pharma Japanと日本アムウェイの協業が、私たちの健康と未来をどう変えていくのか、今後の展開から目が離せません。