返礼品を目的としたふるさと納税が広がる中、あえて「モノではなく、未来への支援」を選べる寄付の形があります。東京都練馬区は2025年4月から、6つの新たな寄付メニューの受付を開始しました。いずれも、教育や福祉、まちづくりといった地域課題に対して、寄付を通じて直接的に支援できる仕組みです。
注目したいのは、インターネットを通じて資金を募る「クラウドファンディング型寄付」が含まれている点です。美術館と図書館の融合を目指す文化施設のリニューアルや、都市農業の魅力を発信する全国イベントの開催、公園トイレのイメージアップを図る再整備プロジェクトなど、多様なテーマがそろいます。また、児童養護施設出身の若者支援や、医療的ケア児とその家族のサポート、ひとり親家庭の体験格差を埋める取り組みなど、支援先の顔が具体的に見える設計になっているのも特徴です。
返礼品ではなく、共感や応援の気持ちを届ける寄付。そこに込められたのは、「未来の練馬を一緒に育てたい」というシンプルな問いかけでした。本記事では、練馬区が示したこの6つのメニューが、どのような課題意識から生まれ、どのような未来を描こうとしているのかを見ていきます。
子どもと地域の未来を支える取り組み
今回の新しい寄付メニューのうち、クラウドファンディング型として展開されているのは3つのプロジェクト。それぞれが、文化・農業・公共空間といった異なる分野で地域の未来を形づくろうとする試みです。練馬区のビジョンが詰まったこれらの取り組みは、ふるさと納税の「使い道を選べる寄付」という仕組みと相性が良く、共感を軸に参加できる形になっています。
美術館と図書館がつながる、新しい学びの場づくり

練馬区では現在、区立美術館と貫井図書館を一体的に整備するリニューアルプロジェクトを進めています。目指すのは、「まちとつながる開かれた文化施設」。芸術と本が同じ空間で交わることで、子どもたちがアートや知識に自然と触れられるような場を目指しています。令和11年度のオープンを目指しており、寄付はその整備費用に充てられます。
URL:https://www.furusato-tax.jp/gcf/3849?srsltid=AfmBOoolNbLNR5yqbl8ITqiAD9Y54HGDEn9SvKiLAP7DuLHkDrPpJSYh
都市に息づく“農”を、全国へ発信

都市農業という言葉にあまりなじみがない方もいるかもしれませんが、実は練馬区は都内有数の農業地帯です。そんな地域の強みを活かし、2025年11月には「全国都市農業フェスティバル」が開催される予定です。このイベントでは、全国の自治体や農業者が集まり、都市で営まれる農の魅力や意義を紹介します。寄付は、イベントの開催準備や広報活動の支援に役立てられます。
URL:https://www.furusato-tax.jp/gcf/3847?srsltid=AfmBOoqbF51FWaLdFCO-VnOYqD9d6Vn3Q0Tq1qEVn8wrSo4oVcxszEwH
公共トイレの“イメージ改革”に挑戦

練馬駅前の「平成つつじ公園」は、多くの市民に親しまれてきた場所ですが、開園から30年が経ち、リニューアルが必要な時期を迎えています。とくに注目されているのが、園内トイレの改修プロジェクト。清潔で使いやすいだけでなく、地域の個性が感じられるようなデザインを目指して整備が進められています。身近な公共空間を快適にするこの取り組みは、少額からでも気軽に参加できます。
誰も取り残さないまちづくりへ
もう一つの新たな寄付メニューでは、医療的ケアが必要な子どもや、社会的に支援を必要とする若者、ひとり親家庭の子どもたちに向けた3つの取り組みが展開されています。いずれも、暮らしの中で見落とされがちな声に耳を傾け、地域ができる形で支えることを目指したプロジェクトです
社会的養護の若者に、安心して羽ばたける未来を

児童養護施設や里親家庭で育った若者は、18歳以降に突然“自立”を迫られるケースも少なくありません。練馬区では、そうした若者の不安や孤立を少しでも和らげるために、都の児童相談所と連携し、居場所の確保や経済的支援といった自立支援に取り組みます。この分野では都内初となる試みであり、寄付金はその体制づくりを後押しします。
医療的ケア児とその家族に、やさしい支えを

医療的なケアが日常的に必要な子どもたちと、その家族の負担は非常に大きいとされています。とくに介護の中心となる保護者の睡眠不足や、きょうだい児のストレスといった課題が浮き彫りになっています。練馬区は、そうした家庭の介護負担を軽減し、家族全体が少しでも安心して暮らせるように福祉サービスの充実を図ります。寄付はその具体的な支援策に活用されます。
子どもたちに、等しく“体験する力”を
家庭の事情によって、体験や学びの機会に差が出てしまうことは少なくありません。練馬区では、ひとり親家庭の子どもたちに向けて、学習支援や親子体験プログラムを新たに展開し、「体験格差」の解消を目指しています。寄付を通じて、子どもたちが社会とつながり、視野を広げる機会を得られるよう支援する環境づくりを応援できます。
URL:https://www.furusato-tax.jp/city/product/13120?srsltid=AfmBOoriyaIRJ3j2CWc4Mpkvdd5ZSIkc4lAmZ1dUgRzyzpP4YnZp4Men
ふるさと納税の新しい形
多くの人にとって、ふるさと納税といえば「返礼品」が注目されがちですが、練馬区の寄付メニューには返礼品がありません。一方で、「こういう未来を応援してほしい」という明確な目的があり、その思いに共感した人が参加できる仕組みとなっています。
今回紹介した6つのプロジェクトでは、それぞれの寄付先や使い道がはっきりと示されており、寄付者は自分が支援したいテーマを選んで応援することができます。さらに一部のプロジェクトは、インターネット上で資金を募るクラウドファンディング型を採用しており、取り組みの内容をより多くの人に届け、広く共感を集める工夫も取り入れられています。
「自分の意思で、未来を少しだけよくする」。そんな小さな行動が、まちの姿を変えていく可能性を秘めています。
モノよりも、思いを届ける寄付。練馬区が示したこのかたちは、ふるさと納税の“これから”を考えるきっかけにもなりそうです。