つらかった記憶ほど、人は思い出したくないものかもしれません。
けれど、そのひとつひとつが「確かに乗り越えてきた証」だとしたら——。
小児がんなどの治療を経験した子どもたちが、自身の歩みをビーズでつなぎ、振り返るアート介在療法「ビーズ・オブ・カレッジ」。2026年3月、認定NPO法人シャイン・オン!キッズは「AYA week 2026」の一環として、この“ふりかえりビーズ”のワークショップを開催しました。
ビーズ一つひとつに込められたのは、治療の記憶や、そのときの気持ち。つなぎ合わせることで見えてくるのは、ただの過去ではなく「自分が頑張ってきた証」です。つらい経験が、少しずつ意味を持ち、前に進む力へと変わっていく——そんな時間が、確かにそこにありました。
今回は、この取り組みの背景や子どもたちの変化、そして支える人たちの想いに触れていきます。
ビーズがつなぐ“頑張ってきた証”と、子どもたちの変化

小児がんなどの治療は、身体的な負担だけでなく、心にも大きな影響を残します。長い入院生活や繰り返される治療の中で、「頑張った記憶」よりも「つらかった記憶」が強く残ってしまうことも少なくありません。
そんな中で行われているのが、アート介在療法「ビーズ・オブ・カレッジ」です。
このプログラムでは、子どもたちが治療の過程で経験した出来事を意味するビーズを医療従事者が務める「ビーズ大使」から受け取り、それらをひとつずつつなげていきます。ビーズは単なる飾りではなく、「点滴を頑張った」「手術を乗り越えた」など、その瞬間ごとの記憶を象徴するもの。ビーズ大使との対話を通し、つなぎ合わせることで、自分がどれだけの時間を過ごし、どれだけのことを乗り越えてきたのかを“形”として実感できるのです。
今回のワークショップでは、新たに「まなびのビーズ」も導入されました。
「できたね」「くやしいね」「ありがとう」——。
日常の中で感じたさまざまな気持ちや成長を表現するこれらのビーズは、治療そのものだけでなく、その先の生活や心の変化にも目を向けるきっかけになります。
実際に参加した子どもたちからは、こんな声が寄せられています。
「ビーズを通すことで、これだけ頑張ったんだと思えた」
「経験してきたことが形になって、自信につながった」
過去の入院生活について「思い出したくない」と感じていた子どもが、ビーズを通してその記憶を見つめ直し、前向きに受け止めるようになる——。それは決して簡単な変化ではありません。
けれど、ひとつひとつのビーズを手に取りながら、自分の歩みを振り返る時間は、「つらい出来事」だった過去を「意味のある経験」へと変えていきます。
見えなかった頑張りが、目に見える“証”になる。
その積み重ねが、子どもたちのこれからを支える力へとつながっていくのかもしれません。
子どもだけじゃない 家族も支える取り組みの広がり

子どもたち自身の心のケアに加えて、今回のワークショップでは新たな取り組みも行われました。それが、保護者向けに初めて開催されたセミナーです。
テーマは「病気とともに歩む、子どもの『自立』と『はたらく』への架け橋」。小児がんを乗り越えた後の人生において、進学や就職といった将来の選択をどう考えていくのか、そして親としてどのように寄り添っていくべきかについて、専門家による講話と参加者同士の交流が行われました。
近年、医療の進歩により小児がんを乗り越えて成長する子どもたちは確実に増えています。しかしその一方で、治療の影響による後遺症や体調面の不安など、退院後もさまざまな課題を抱えるケースがあるのも現実です。
だからこそ重要になるのが、「その後の人生」をどう支えていくかという視点です。
セミナーに参加した保護者からは、
「伝え方を工夫していきたいと思った」
「すべてが学びになった」
といった声が寄せられ、日々の関わり方や将来への向き合い方を見つめ直すきっかけになっている様子がうかがえます。
また、「実際に進学や就職を経験した方の話を聞いてみたい」といった声もあり、同じ経験を持つ人同士がつながり、情報を共有できる場の必要性も見えてきました。
子どもを支えるためには、家族の理解や安心も欠かせません。
そして、家族が前を向くことが、子ども自身の未来にもつながっていきます。
今回の取り組みは、子ども一人ひとりに寄り添うだけでなく、その周りにいる人たちも含めて支えていく——そんな広がりを感じさせるものとなっていました。
なぜこの取り組みが必要なのか “治療のその先”にある課題

小児がんなどの重い病気は、治療が終わればすべてが解決するわけではありません。むしろ、本当の意味での課題は「その後の人生」にあるとも言われています。
長い入院生活や治療を経験した子どもたちは、学校生活や人間関係、将来の進路など、さまざまな場面で壁に直面することがあります。体調への不安や後遺症だけでなく、「自分の経験をどう受け止めるか」という心の部分も、大きなテーマとなります。
過去の出来事を振り返ること自体がつらく、記憶にふたをしてしまう——。
それは決して珍しいことではありません。
しかし、だからこそ必要とされているのが「ふりかえり」の機会です。
ビーズを通して自分の歩みを見つめ直す時間は、つらかった経験を無理に美化するものではありません。ひとつひとつの出来事に向き合い、「それでも自分はここまで来た」と認めるプロセスそのものに意味があります。
今回のワークショップでは、子ども本人だけでなく、きょうだい児を対象としたプログラムも実施されました。病気の当事者ではないものの、同じ時間を過ごし、さまざまな思いを抱えてきた兄弟姉妹たちにとっても、自分の経験を振り返る機会は大切なものです。
さらに今後は、退院後の子どもやその家族に向けた交流の場づくりや、有識者からの情報提供など、継続的な支援が予定されています。
治療が終わったあとも、人生は続いていく。
その中で、自分の経験をどう捉え、どう前に進んでいくか。
今回の取り組みは、その問いに寄り添いながら、一人ひとりの歩みを支えるものでもありました。
一人ひとりの歩みに寄り添う シャイン・オン!キッズの支援とは

今回のワークショップを通して見えてくるのは、単なるイベントの枠を超えた、継続的な支援のかたちです。
シャイン・オン!キッズは、小児がんや重い病気と向き合う子どもたちとその家族に対して、「心のケア」を軸としたさまざまなプログラムを展開しています。
そのひとつが、今回紹介した「ビーズ・オブ・カレッジ」。アメリカで生まれたアート介在療法を日本で展開できる唯一の団体として、子どもたちの経験を“見える形”にする支援を続けています。
さらに、病院内で子どもたちに寄り添う「ホスピタル・ファシリティドッグ®」の活動や、小児がん経験者の社会参加を支援するコミュニティ、オンラインでの学習支援など、その取り組みは多岐にわたります。
共通しているのは、「治療のその先」まで見据えているという点です。
病気と向き合う時間だけでなく、その後の人生をどう生きていくのか。
どのように社会と関わり、自分らしく歩んでいくのか。
その問いに対して、子どもたち一人ひとりに寄り添いながら支え続けているのが、この団体の大きな特徴です。
目に見えない心の変化や成長を、丁寧にすくい上げていく。
そして、その積み重ねが、子どもたちの未来を少しずつ照らしていく。
今回の取り組みは、その一端を感じさせるものでした。
つらい記憶を「生きてきた証」に変えていくために
つらかった出来事は、できれば思い出したくないものかもしれません。
けれど、その一つひとつに向き合い、少しずつ言葉にし、形にしていくことで、過去の意味は変わっていきます。
ビーズをつなぐというシンプルな行為の中にあるのは、自分自身の歩みを認める時間。
そしてそれは、「ここまで頑張ってきた」という確かな実感へとつながっていきます。
治療の先にも続いていく人生の中で、自分の経験をどう受け止めるか。
その答えは一つではありませんが、こうした取り組みが、そのヒントになるのかもしれません。
子どもたち一人ひとりの歩みが、これからも前向きな形で紡がれていくことを、願わずにはいられません。
シャイン・オン!キッズ 概要
小児がんや重い病気と向き合う子どもたちとその家族に対し、心のケアを軸とした支援活動を行う認定NPO法人。アート介在療法「ビーズ・オブ・カレッジ」や、ホスピタル・ファシリティドッグ®による支援、学習支援プログラムなどを通じて、治療中からその後の人生までを見据えたサポートを展開しています。
公式サイト:https://sokids.org/ja/
