「ふつう」って、いったいなんでしょうか。
人と違うところを「とくべつ」と呼ぶこともあれば、それを“その人らしさ”として受け入れることもあります。そんな“ふつう”と“とくべつ”のあいだにあるものを、アートを通して見つめ直す展覧会が、兵庫教育大学で開かれています。
会場には、但馬地方で障害のある人たちの創作活動を支えるNPO法人がっせぇアートの作品や、神戸大学附属特別支援学校での美術授業から生まれた作品が展示されています。どれも色や形に個性があふれ、観る人の心を明るくするような力があります。
展示のテーマは「ふつうのとくべつ/とくべつのふつう」。
障害の有無にかかわらず、一人ひとりが“とくべつ”な存在であることを伝えています。美術を通じて自分らしさを大切にし、誰もが安心して表現できる環境の大切さを感じさせてくれる内容です。
芸術作品に込められた思いを静かに味わいながら、「ふつう」とは何かを考えてみたくなる――そんな温かい展示です。
個性が響きあうアート展「ふつう」と「とくべつ」を見つめて

兵庫県加東市にある兵庫教育大学・教材文化資料館で開催中の特別展『ふつうのとくべつ/とくべつのふつう―個性のいきる作品と個性をいかす教育』。
2025年10月1日から2026年2月15日までの長期開催で、入場は無料です。約47点の作品が展示されており、誰でも気軽に訪れることができます。
この展覧会では、但馬地方で障害のある人たちの芸術活動を支援しているNPO法人がっせぇアートと、神戸大学附属特別支援学校が参加しています。どの作品も、色づかいや構図、筆づかいなどに個性があふれ、見ているだけで創作の楽しさが伝わってくるようです。
兵庫教育大学はこれまでも、教育の現場から多様性や創造性を育む活動を積極的に発信してきました。教材文化資料館は、その理念を社会に伝えるための大切な場でもあります。今回の展示は、芸術を「学ぶ側」と「支える側」の両方から見つめ、教育とアートのつながりを改めて考える試みともいえます。
注目したいのは、「障害があるから特別」なのではなく、「自分らしく生きること」が特別だという考え方。
アートを通じて、人それぞれの“ふつう”や“とくべつ”を肯定する場をつくりたいという想いが込められています。
静かな展示室に並ぶ作品の数々は、一人ひとりの人生を映し出すように輝いています。
そこには、作品を支える教育者や仲間たちのあたたかいまなざしも感じられます。
色も形も自由に――“がっせぇ”な個性が広がる空間

展示の前半にあたるコーナー「ふつうのとくべつ」では、但馬地方を中心に活動するNPO法人がっせぇアートのメンバーをはじめ、障害のある方々による作品が展示されています。
「がっせぇ」とは、但馬の言葉で“すごい”という意味。その名の通り、会場にはエネルギーがあふれる“がっせぇ”作品が並びます。色鮮やかな抽象画、緻密に描かれた動物の絵、数百枚のイラストを組み合わせた大作など、どれも独自の世界観を持っています。
作品を生み出しているのは、特別な訓練を受けたアーティストではなく、日々の暮らしの中で創作を楽しむ人たち。
がっせぇアートは、障害のある人たちが自分のペースで表現できるよう、アトリエやワークショップを通じて創作環境を整えています。絵筆を握る時間が“心の居場所”となり、作品づくりが日常の一部として根づいています。

印象的なのは、作品の背景にある“支える人”の存在です。自由な発想を尊重し、完成を急がせることなく見守るスタッフや仲間たち。その環境があるからこそ、のびのびとした線や大胆な構図が生まれています。作品のひとつひとつから、描く喜びと、それを支える人の温もりが伝わってきます。
観る人は、色彩や形の中に込められた「ありのままを表現することの尊さ」を感じるはずです。
作品に近づくほどに、その“がっせぇ”力が静かに心に届いてくるようです。
教室から広がる“とくべつ”な表現力

後半のコーナー「とくべつのふつう」では、神戸大学附属特別支援学校で行われている美術の授業と、生徒たちの作品が紹介されています。
展示されているのは、りんごや八重桜など、誰にとっても身近なモチーフ。
それぞれが感じた色や形を自由に表現した絵や立体作品が並びます。筆づかいや色づかいはどれも異なり、同じ題材であっても一つとして同じ作品はありません。そこには「決められた正解」よりも、「自分の感じたままを描く」ことを大切にする教育の姿勢があります。
美術に苦手意識を持つ生徒も、少しずつ筆を取るうちに表現の楽しさに気づき、自分らしい作品を生み出していく。先生たちは、技術指導よりも“気づき”や“楽しさ”を重視し、子どもたちが安心して挑戦できる環境を整えています。

たとえば、りんごを描く授業では、「形をそっくりに描く」ことよりも、「自分の思うりんごの印象」を大切にしています。赤だけでなく、オレンジや青、紫など多彩な色で塗られたりんごは、それぞれの感性がそのまま表れたようです。こうした表現の自由さは、作品を見る人に“個性の豊かさ”を教えてくれます。
この展示は、特別支援学校という枠を超えて、すべての教育に共通するメッセージを投げかけています。
「子どもはみんな違っていい」という前提のもと、誰もが自分を表現できる場所をつくること。
その取り組みこそが、教育の本質を静かに語っています。
誰もが“とくべつ”な存在として

展示を見終えたあとに残るのは、「ふつう」と「とくべつ」の境界が少し曖昧になるような感覚です。
どんな人にも個性があり、その違いこそが社会を豊かにしている——作品たちはそのことを静かに語りかけてくれます。
一枚の絵、一つの作品に込められた思いは、それぞれの生き方そのもの。
障害の有無や立場に関係なく、誰もが自分らしさを表現できる世界を目指す教育の姿勢が、兵庫教育大学の展示から伝わってきます。
この展覧会が掲げるテーマ「ふつうのとくべつ/とくべつのふつう」は、教育現場だけでなく、私たちの日常にも通じる問いかけです。
作品を通して感じる“ちがい”は、優劣ではなく多様性の証。
その視点を持つことで、他者を理解する目線や、誰かを尊重する気持ちが自然に育まれていきます。
アートは言葉を超えて人の心をつなぐ力を持っています。
兵庫教育大学が届けるこの展示は、そんな“つながりの原点”を見つめ直す機会です。
作品に触れることで、自分の中の“ふつう”を問い直し、「誰もがとくべつである」という温かなメッセージを受け取ることができます。
静かな余韻とともに、心の中にも小さな光が灯るような展覧会です。
『ふつうのとくべつ/とくべつのふつう ― 個性のいきる作品と個性をいかす教育』展 概要

主催:兵庫教育大学附属図書館 教材文化資料館
会期:2025年10月1日(水)〜2026年2月15日(日)
※開館時間は兵庫教育大学附属図書館に準じます
会場:兵庫教育大学附属図書館内 教材文化資料館展示室
URL:https://www.hyogo-u.ac.jp/museum/
