私たちの暮らしを支える電柱や道路、橋などの社会インフラは、毎日のように点検や管理が行われています。しかし、少子高齢化や人口減少が進む日本では、その役割を担う人材の確保が年々難しくなっており、これまでと同じ方法だけで維持していくことが課題となっています。
そうした中で注目されているのが、「ゲーム」と「社会貢献」を組み合わせた新しい取り組みです。市民がゲームを楽しみながら撮影した写真が、実際のインフラ点検に役立つという仕組みは、従来の「行政や企業が管理するもの」という考え方を大きく変える可能性を秘めています。
2026年7月に開催されたテクノロジーカンファレンス「WebX 2026」では、函館市長や東京電力パワーグリッド、経済産業省などの関係者が、この新しいインフラ運用のあり方について意見を交わしました。本記事では、市民参加型ゲーム「ピクトレ」を事例に、DXが社会インフラの維持管理をどのように変えようとしているのか、その背景や意義を紹介します。
少子高齢化で変わるインフラ維持 いま求められる新しい発想

電気や通信、道路などの社会インフラは、私たちが普段意識することは少ないものの、安全な暮らしを支える欠かせない存在です。その一方で、設備の点検や維持管理を担う人材の不足は、全国的な課題となっています。
WebX 2026で行われたパネルディスカッションでは、この課題について自治体や電力会社、国の担当者がそれぞれの立場から現状を共有しました。東京電力パワーグリッドでは、約600万本の電柱や総延長約40万kmに及ぶ送配電設備を管理しています。これまで設備の点検や保守は社員や協力会社を中心に行われてきましたが、人口減少が進む中で、従来の体制だけで維持していくことは難しくなりつつあるといいます。自治体でも同様の課題を抱えており、函館市では人口減少に加え、道路や橋、学校などの維持管理を担う専門職や技術職の確保が難しくなっていることが紹介されました。
こうした状況を受けて議論されたのが、「これまで行政や企業だけが担ってきたインフラ管理を、テクノロジーの力で新しい形へ変えていけないか」という視点です。人手不足が続く時代だからこそ、従来の方法にとらわれない発想が求められています。
ゲームがインフラ点検に役立つ? 市民参加型DX「ピクトレ」の仕組み

こうした課題に対する新しい取り組みとして紹介されたのが、市民参加型社会貢献ゲーム「ピクトレ」です。東京電力グループとDigital Entertainment Asset(DEA)が共同開発したこのゲームは、街を歩きながら電柱を撮影するとポイントが獲得でき、その撮影データが設備の維持管理に役立てられる仕組みとなっています。
ゲームを楽しむことが社会貢献につながる点が大きな特徴で、設備を管理する側は点検データの収集コストを抑えられ、参加した市民は楽しみながら地域に貢献できるという、双方にメリットのある仕組みとなっています。現在は約15万ダウンロード、総撮影枚数は300万枚を超えており、電柱だけでなく自治体が管理するカーブミラーなど、活用の幅も広がっています。
また、パネルディスカッションでは、実際にイベントへ参加した市民が家族で楽しみながら写真を撮影し、その小さな行動が社会課題の解決につながっている様子が紹介されました。これまで専門事業者が担ってきたインフラ管理に、市民が自然な形で参加できる点は、DXが生み出す新しい社会参加の形として新たな可能性を感じさせます。
インフラは「みんなで守る」時代へ DXが広げる新しい社会参加

パネルディスカッションでは、単に人手不足を補うための仕組みとしてではなく、社会全体でインフラを支える新しい形についても意見が交わされました。これまでインフラの維持管理は行政や事業者が担うものというイメージが一般的でしたが、デジタル技術を活用することで、市民も自然な形で関われる可能性が広がっています。
「ピクトレ」のような取り組みは、ゲームを通じて地域を歩き、写真を撮影するという日常的な行動が、インフラ維持に役立つデータにつながる点が特徴です。専門的な知識や特別な機材がなくても参加できるため、これまでインフラ管理と接点のなかった人たちが社会課題の解決に関われるきっかけにもなっています。
人口減少が続く日本では、今後も限られた人材で社会インフラを維持していく方法を考えなければなりません。その中で、テクノロジーを活用して行政・企業・市民がそれぞれの役割を担いながら協力する仕組みは、これからのインフラ管理を考える上で重要な選択肢の一つとなりそうです。
日本発の取り組みは世界へ 広がる市民参加型インフラ管理

「ピクトレ」は国内での活用だけでなく、海外への展開も視野に入れています。パネルディスカッションでは、日本で培った市民参加型のインフラ管理モデルを海外へ広げていく構想が紹介され、今後はタイでの展開も予定されていることが示されました。
インフラの老朽化や維持管理を担う人材不足は、日本だけの課題ではありません。国や地域によって状況は異なるものの、限られた人材で社会インフラを維持していく必要性は、多くの国に共通するテーマとなっています。
ゲームを通じて市民が社会インフラの維持に参加するという仕組みは、日本で生まれた新しいDXの事例として、今後さらに活用の場が広がる可能性があります。テクノロジーを活用しながら地域社会と連携する取り組みが、これからのインフラ管理にどのような変化をもたらしていくのか、今後の展開が期待されます。
未来のインフラを支えるのは、テクノロジーと人のつながり
インフラを維持するための人材不足は、今後さらに深刻化すると考えられています。その課題を解決する方法は一つではありませんが、デジタル技術を活用しながら市民も自然な形で社会に関わる仕組みは、これからの時代を支える新しい選択肢の一つになりそうです。
今回紹介された「ピクトレ」は、ゲームを楽しむことが社会インフラの維持につながるという、これまでにない発想で注目を集めています。DXは業務を効率化するためだけのものではなく、人と社会をつなぎ、新しい参加の形を生み出す可能性を示した事例といえるでしょう。
人口減少やインフラの老朽化は、日本だけでなく世界各国が向き合う課題でもあります。こうした取り組みが今後どのように発展し、地域や国を越えて広がっていくのか。その動向は、未来の社会インフラを考える上でも注目していきたいテーマです。
